第15話 魔王初対戦と意外な弱点

 テレンスが放った転移魔法陣の罠にかかり、

 騎士団が冒険者と討伐予定だったダンジョンのボス部屋に飛ばされたデレスとニィナ。


「これが魔王……魔王?極端に言えばでかいだけの豹なのに?」

「魔王というのは強さの基準レベルの事だ、っと、のんきに話してる暇はない、来るぞ!」


 『シャーーーッ!!!』


 跳びかかってきたセクシーパンサー、

 間一髪アイテムボックスから出したベルセルクソードで爪を防ぐニィナ、

 鞘はボックスの中に消えて行った。


「まずは私が相手だ!」


 またタンク職のように相手の攻撃を防ぎ続けるニィナ、

 その隙に僕は胴剣を出して素早さを生かし斬って離れる斬って離れるを繰り返す。


「硬い!この毛皮、めっちゃ硬い!うわっ!」


 ばいーーーんっとシッポで弾き飛ばされる!

 鎧も何も戦闘用装備を着ていないから壁に衝突したら、

 アバラが折れるか内臓が破裂しそうだ、と慌ててアイテムボックスから装備を……


「その剣では無理だ!くそっ、やはりグレートサイクロプスより早くて強い!」


 圧されて壁際に追い詰められようとしているニィナさん!助けないと!

 僕は無詠唱でバウンドアタックをかけるも艶々な毛が少し逆立った程度だ。


「デレス!いま私のプリンセスソードを……ぐあっ!」


 爪が駄目ならばと肉球でニィナさんの大きな身体ごと飛ばされる!

 やはり騎士団と冒険者が束になって戦わないと相手にならないレベルだ。

 無詠唱でプラチナヒールをかけてあげるとむくりと起き上がり追撃してきた爪を避ける!


「今ので時間は貰った!ほらデレス」


 アイテムボックスからぽーいと渡される!

 僕の持っていた勇者専用プライドソードと同じオリハルコンで作られているようだ、いける!

 後ろに回り込んでシッポを避けて切ろうとするが後ろ足でも蹴ってくる!

 かろうじてその肉球に刺さっても簡単に蹴り飛ばされて抜ける……どうしたらいいのこれ。


「よし装備はつけた!デレス、指示を頼む」

「えええええええ?!」

「勇者ポーターにはそういうのを求められるはずだ、考えろ!」


 リッコ姉ちゃんみたいな事を言う……

 パーティーで戦闘中も『勇者だからもっと考えなさい』ってうるさく言われた、

 こういう時、前のパーティー、デレスフライヤーズだったら……テイマーのハービィが……あ!!


「ニィナさん、武器交換してください!」

「なに?プリンセスソードでは防御がもたんぞ」

「少しの間でいいんです、逃げ回るだけでも構いません!」


 セクシーパンサーの攻撃を受けて防いでいたベルセルクソードを僕に力任せに放り投げる!

 これはこれで危ない!と思いながら避けて逆にプリンセスソードを投げる!

 するとニィナさんの手に渡る前にしっぽで弾かれて壁にあたる、それを拾いに行った所を狙われた!


「お腹です、お腹に潜ってください、剣はいいから!」

「よし、入るぞ!」


 向かってきたニィナさんに噛みつこうとしたセクシーパンサーだったが、

 間一髪ニィナさんの方が早い!顎の下に潜り込むと今度はしっぽを股の間に入れて突きにくる!

 あれをまともに受けたら壁に激突死しかねない、と僕はベルセルクソードを拾って力任せに……振り下ろした!!


『ギニャーーー!!!』


 はじめて聞く受け身の鳴き声!

 僕は巨大なベルセルクソードの、

 平たい部分でセクシーパンサーのシッポの付け根を叩いたのだ!


「ほらほらほらほら!!」


 そう言って何度も何度もジャンプしてバシバシバシバシ叩く僕!


『ウニャニャニャニャニャニャ!!!』


 両足を踏ん張り、前かがみになって腰を高くするセクシーパンサー!

 完全に動きが止まり、なぜか舌を激しくペロペロしている!今だ!


「でかしたデレス!うおーーーーー!!」


 お腹に潰されそうだったのをうまく潜り避けたニィナさんが前に回り、

 鼻の穴の中へプリンセスソードを一突きする!!


『ニャアアアアアアアアーーー!!!』


 刺したまま仰向けに倒れたセクシーパンサー、

 その*に今度は僕がベルセルクソードを突き刺した!


「とどめだー!」


 勇者の魔力をベルセルクソードに込める!

 するとニィナさんもやってきて一緒に持ち、二人の魔力を合わせる!

 そうして剣を持ち上げるとセクシーパンサーも持ち上がって……そのまま壁へ投げる!


 ドッシーーーン!!!


 ダンジョン全体が揺れるような振動……

 頭が思いっきり激突したようでセクシーパンサーは気絶していた。


「……ふう、やるなデレス、やったな」

「やりましたね、あとは……」

「トドメは私の仕事だ」


 *からベルセルクソードを抜き、首に狙いを定める、

 精神統一したのちに一気に振り下ろすと……見事に斬り落とす事ができた!


「すごい!あんなに硬かったのに」

「気絶しているからだろう、体内からの魔力を感じなかった」

「えっ、魔力を出して防御してたんですかこの魔物?どおりで強いはずでした」


 落ち着いて少し休む……でかかったなあセクシーパンサー、

 やっぱりすごい艶々な毛並みだ、と撫でてみると気持ちいい。


「この毛は素材としても一級品だ、身体を軽量化できるらしい」

「本当ですか!」

「ああ、あと髭は特殊なポーションの材料になるとか……それにしてもよく弱点がわかったな」


 シッポの付け根を叩いた事か。


「ええっと、以前、テイマーのハービィがワイルドキャットをティムした時、

 暇つぶしにシッポの付け根を叩いて遊んでたんです、そしたらあんな風に」

「……そういえばあそこは猫系の性感帯だったか、だがよくそれをセクシーパンサーに」

「あとは動きさえ封じてしまえば毛皮を避けた穴狙いですよね」


 ベルセルクソードが臭くなっていそうだけれど。


「今夜はご褒美をやろう、ベッドの上でな」

「そ、そんなご褒美だなんて」

「だが私の前で他の女との思い出を語ったのはマイナスだ、お仕置だな」

「そんなあ!」

「よってベッドの上でご褒美とお仕置、両方をしてやろう」


 なんて話をしたのちセクシーパンサーの巨体をアイテムボックスへ収納する、

 勇者のアイテムボックスはレベルに応じて入り口も膨らむので僕なら何とかしまえた、

 さぞかし大きな魔石が取れるだろうな、毛皮は全部もらおう、なんて話ながら地上につくと……!


「おお、無事だったのか!今から潜る所だったぞ!」


 冒険者イマーニさんが斧二つを持って立っていた、

 後ろには衛兵がいっぱい、ニィナさんの部下だった人たちみたいだ。


「私のデレスと一緒なら余裕だったぞ、魔王を倒してきた」

「まさか、本当か?逃げてきたんじゃなかったのか」

「ああ、後でいくらでも調べるが良い、死体ならデレスが持っている」


 ぼくは生首だけ出してみんなに見せる、場所取るけど。


「「「「「おおーーーーー!!!!!」」」」」


 勇者便でドラゴンに乗り王都へ戻る最中、

 ニィナさんが今後について語る。


「セクシーパンサーの素材解体は一晩で終わらせさせる、明日には旅立とう」

「行くあては、あるのですか?」

「ああ、せっかく良い毛皮が手に入ったんだ、あとは金さえ積めば凄い物が作れるぞ、楽しみだ」


 ニィナさんの胸の中で考える……

 今回は運が良かったけど、二人だとやぱり心許無い、

 もっと強力な仲間が必要だけど、ニィナさんはどう考えているのだろう?


「あの、ニィナさん、パーティーなんですけど」

「そうか、パーティ名が必要だな、考えておこう」

「あ!そうですね、それもですが、その、増やします、よね?」

「当然だ、勇者二人だけのパーティなぞあらゆる意味で足りないしもったいない」

「ですよね……それを聞いて安心しました」


 デレスフライヤーズでは勇者、剣士、僧侶、魔法使い、テイマーと、

 ほぼ完ぺきプラスアルファなパーティーだった、前衛が足りない時はティムモンスを使った、

 僕らは今のところ勇者、勇者ポーターだ、僧侶は必須として魔法使いも欲しいけど、うまく見つかるかな。


「さあ冒険者ギルドの皆を安心させよう、テレンスは七発くらい殴らなければ気が済まん」

「はは、僕の分もお任せします」

「どうだった?初めての魔王討伐は」

「強かったですが、その、喋れなくても魔王なんですね」

「そんなルールはない、もちろんこの大陸の七大魔王は全部人語を喋れるらしいがな」


 七大魔王かぁ……


「あんなのがあと七匹も?」

「いや、あのセクシーパンサーは魔王としては最弱かも知れない」

「ほ、ほんとですか」

「昔この地にいた魔王を私のお爺様パーティーが倒してな、

 その後に沸いたボスだから弱いんだ、とはいえ今日まで倒せなかったから魔王は魔王だが」

「じゃあこれからが本番という事ですか」


 背後からきゅっと抱きしめてくれるニィナさん。


「あんなのは言うなれば近所のボス猫程度だ、だが……かっこよかったぞ」

「ありがとう、ございます」

「さあ、素材を渡したら宿で休もう、アイリー最後の夜だ、あの一番豪華なホテルの一番の部屋に泊まるぞ」


 ああ、今夜はめちゃくちゃ愛されそうな予感がする。

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