第16話 一気の昇級と女勇者の過去
「おめでとうございます、ニィナさんは特例によりCクラス昇格になりました!」
翌朝、僕は冒険者ギルドでその言葉に驚いた。
「ニィナさん、し、しししCランクですって!」
「魔王を倒したんだ、当然だろうな、Cクラスでも低いくらいだ」
「本来ならレベル40まで上げてソロ勇者様の場合は昇格試験もあるのですが、
現在レベル37である事と、勇者ポーター様と実質ペアを組んでらっしゃる事、
そして何より魔王討伐という偉業を成し遂げた事により特別昇格となりました!」
そう、セクシーパンサーを倒した事でニィナさんはレベルがふたつも上がったらしい。
「今の所パーティー名は空欄にしてありますが、いかがなさいましょう、今、決められますか?」
「……今でないとまずいのか」
「いえ、次回でもかまいませんがなるべく早く、それとデレス様も昇格なされています」
「え?……あ、ほんとだ!Bランク勇者ポーターになってる!」
「おめでとうございます、同じく特例です!」
依頼もまだ、なにひとつこなしていないのに……
これはアレだ、きっと勇者ポーターの仕事さっさとしろと、
あとBランク以上の勇者ポーターへの依頼とかも溜まっていたりしてそう。
「さらにおふたりには、国王陛下から特別報奨金が出ております」
「そうか、とりあえず今はいい、後日、別のギルドで引き出させてもらう」
「それは構いませんが、国王陛下が直接、お会いしてお礼を言いたいそうです」
困惑の表情になったニィナさん、会いたくないようだ、ここは僕が聞く。
「あの、断る事はできますか?」
「それは構わないと思いますが、ただ、昨日の事件についての報告は欲しいそうです」
「事件……?あ、そっか、僕ら強引に転移されたんだった」
もはや僕の中では普通に魔王を倒しに行って、
普通に帰ってきたことになってるけど、
よく考えたら殺されそうになったって事だから、その事情聴取か。
「事情聴取は受けます、ここででは駄目ですか?」
「構わないと思いますが時間がかかるかと」
「いやいい、デレス、それくらいであれば出向こう」
お城に入るなら貴族服か何かに着替えた方がいいんじゃ、と思ったが、
ニィナさんがそのままでいいと言うのでついていく、衛兵がめっちゃ敬礼してる……
あらためて間近で見ると大きく立派なお城、ニィナさんの元職場だ。
「ご苦労」
完全に顔パスで入っていく、
僕が不審者だったらどうするんだろう?いや多分、もう話は行ってるんだろうけど。
「どうしたデレス」
「いや、もう騎士団を辞めたんですよね」
「辞めたというかクビだな」
「なのにスルーなんですね」
「一応、我々は招待された側だからな」
真っ先に国王陛下謁見の間に通されようとしたがニィナさんがきっぱり断ってくれた、
すでに国王陛下が座って待ってたらどうするんだろう?と思ったが、
魔王を倒した勇者だから構わないだろうと……そして僕らは別々で取り調べを受け、
僕は酔ってた(酔ったフリ?)ニィナさんと冒険者ギルドの食堂兼酒場で出会ってから襲われるまでを、
詳細に報告した……いや襲われた話って言っても夜盗にであって、
ニィナさんとの夜までは詳細は言ってないよ!宿に送ったって言っただけ!
「……ふう、つかれた」
「ご苦労だった、私も少々骨が折れた」
「結局、僕が勇者だって事も流れから話す事になっちゃいました」
「構わん、もうこの国を出ていくからな」
「本当に国王陛下に会わなくて良いんですよね?」
出口へ向かうと昨日ギルドで見た白チョビ髭の宰相さんが居た。
「ニィナよ、国王陛下の直々の命令である、騎士団長になれ」
え、え、えええ???
「断る」
断った!!
「……謝罪が必要なら頭を下げると国王陛下も言っている、こちらのミスだ」
「いや、私はもう自由だ」
「テレンスの権限は全て騎士団長就任前にさかのぼって取り消した、ニィナの解雇もだ」
「クビになった事実は事実だ、それは取り消す取り消さないは関係ない」
「騎士団退役金の金貨五十枚は返さなくて良い、どうか戻ってきてくれ」
ニィナさんはそっと僕を護るように後ろから抱え、出口へ歩く。
「……行ってしまうのだな」
「ああ、私には、この国より大切なものができた」
「わかった、どうしてもというのであれば無理にとは言わんと陛下も言っていたからな」
そうして出たニィナさんが向かったのは別の建物だった。
「あれ?ここは」
「牢屋だ、テレンスは私たちを殺せたと思っているらしく、生きて魔王を倒し帰ってきたという話を信じていないらしい」
「あーそれで」
うん、ざまぁするなら付き合うのも、やぶさかではない。
牢のベッドでふんぞり返っていた元騎士団長テレンスは、
僕らの姿を見てひっくり返った、ベッドから落ちてうろたえている。
「まさか!あそこから、生きて帰ってくるとは!」
「当然だ、私たちをなめるな」
「ばかな!相手は魔王だぞ!ばかな!くそう!くそう!」
あ、ちょっと気持ちいい!
「ではなテレンス、私は冒険者として生きていく、デレスと一緒ならどこであっても幸せだ」
「……いいのかデレス、その女はとんでもなく汚れた女だぞ、貴族なら誰でも股を開く、俺も何度抱いた事か」
「えっ」
「何だ知らなかったのか、そうだよなニィナ」
「私は本当に自らの意志で抱いたのはデレスだけだ、これからもな、さあデレス、行こう」
さすがにちょっと焦った感じで牢を出ようとするニィナさん、
してやったりなテレンスに僕は言い放つ。
「ニィナさんはニィナさんですよ、どんな過去があろうと、ニィナさんを支えます」
外へ出ても気まずい雰囲気……
別にニィナさんの過去がどうとか言える立場じゃないけど、
ちょっとモヤッとする、と思っていたらニィナさんの方から口を開いた。
「少しだけ寄らせてくれ、ついてくるといい」
背中をついていくと寝取られたリッコ姉ちゃんを思い出す、
あの後ろ姿にずっと、一生ついていくものだと思っていた、
でも、でもその背中は知らない誰かに取られてしまった……僕が前にいかないと!
「どうした?丁度良い、少し話をしよう」
「あ、はい」
横に並んで歩く、これで手を繋いだら母子みたいだ。
「私はお爺様、勇者テイクが亡くなってから国に献上されたようなものでな、
学園在学中も騎士団見習いとして駆り出されたりもした、その頃から私は、
この国に仕える事こそが全て、それのみが私の人生になったと心に決めていた」
「それが……裏切られたんですね」
「国王はもちろん軍務の大臣、騎士団長など命令は公式非公式なんでも受けた、拒否権は私の中では絶対になかった」
少し後悔している表情に見える。
「非公式の中にはこの身体を欲するものもあってな、
騎士団を支える国王派の貴族から怪しいパーティーに呼ばれ、
私を含めた女性騎士が全裸で並ばされたりもした、上官からの非公式の命令としてな」
「なんていうか、悪趣味な」
「それで貴族は好みの女を見定めて部屋へ……私は何度もこの身を差し出した、それが騎士団の、国のためだと信じ」
「テレンスとはそれで」
「ああ、あいつも何度もそっち側に回っていたな、ただあくまで私は自分をそういう騎士団の道具として割り切っていたのだ」
間違った正義、というか正義じゃないなこれ。
「同僚だった女騎士は次々と辞めていったが、私には他に居場所がなかった、
テイクお爺様のいないミシュロン家になど帰りたくないし、献上された身だから帰る場など元からない」
「でもその、執事さんがお戻りくださいって」
「それは他への献上場所があるからだろう、そういう家だ、帰ったらおそらく婚約先を告げられすぐ行かされる」
勇者なのに、と思ったが僕だって売り買いされた身だ。
「汚い貴族に抱かれ続け、騎士団でも道具のように扱われ、
私はどんどん鋼鉄のように表情を崩さなくなっていった」
「それで鋼鉄のバーサーカー、ですか」
「ああ、バーサーカーはこの剣のせいもあるが、魔物には敵に擬態する者もいてな、
怪しい仲間はとりあえず殴る事にしている」
「あーそれで」
「擬態でなくとも味方にも裏切り者がいるかも知れないからな、
あと若い頃は単純にこの剣の制御が効かずよくぶつけていた、そのせいもある」
愚直で不器用という面では僕に似ているのかな、
僕にはリッコ姉ちゃんがいて、ニィナさんには騎士団があって、
裏切られた者同士、その苦しさは共感できているのかも知れない。
「だがさすがに騎士団から誰とは告げられず婚姻を言い渡された時、
非公式命令といえど首を縦にはふれなかった、
なぜならそれはすなわち騎士団を辞めるのに等しいからだ」
「あー子供をたくさん産むのに集中しろって言われそうですよね」
「もちろん誰が相手か知らされなかったのが気に食わないのもあった、
上官からは騎士団員としてどんな命令にも従うが、それとこれは話が別だ」
確かに身体を差し出すまではできても、
結婚となるとまるで意味が違ってくる。
「断れば騎士団をクビと言われたがどちらも同じだとはっきり拒否した、
その結果があれだ、まさか私が夜盗に襲われてそれをテレンスが助ければ、
心奪われるだろうという安い芝居を打つとは思ってもみなかったが」
「なるほど、それで」
「あと私のベルセルクソードは美術品としても高価だから、
私が手に入らなくても最悪、これを奪えればと思ったのだろう……ここだ」
着いたのは豪華な貴族の屋敷、きっとミシュロン公爵家だろう。
「ここも見納めか……」
「入らなくていいんですか?」
「いや、ここでいい、少しだけ眺めさせてくれ」
感慨深げなニィナさん、
なんだかんだいって実家だもんな、
もう二度と戻ってこない決意なんだろう。
「……あれは!」
ニィナさんが何かに気付いた、
見ると玄関から子供たちが四人ばかり出てくる、
女の子ふたりと男の子ふたりだ、
「お姉様」「おねえさまぁ」「姉上!」「ニィナねえさま!」
「おお……リィナ、ミィナ、ユース、キョース」
子供たちは腰をかがませたニィナさんに抱きついた、
さすがのニィナさんもうるうるしている、感動の再会というやつだ。
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