第17話 涙の別れとイニシアチブ決闘
「お前たち……大きくなったな」
まずは女の子ふたり、といってもひとりは十五歳くらいか、
もう一人は十歳くらい、その小さい方の子がしゃがんだニィナさんの胸にしがみつく。
「ニィナおねえさま……」
「ミィナ、ちゃんと大きく育っているようだな」
「うんっ!おねえさまのお手紙通りにちゃんと魔法のくんれんも、やってますぅ」
「そうか、これからはあまり手紙を書いてやれなくなるが、がんばるんだぞ」
「いやぁ、おねえさま、いかないでぇ……」
背の高い方の子も首に腕を絡ませる、
騎士然とした感じのたたずまいが美しい、
ニィナさん程では無いが、すごく恵まれた体だ。
「お姉様、お戻りになられるのではと聞いて待っておりました」
「すまないリィナ、屋敷を見たかっただけでもう旅立つ、帰ってこないつもりだ」
「せっかく私も騎士団に入れるというのに、もう稽古もつけてもらえなくなるのですね」
「……先ほど、騎士団の膿は出してきた、魔王も倒した、あとは己の好きにするといい」
「お姉様は、他の魔王を倒しに行かれるのですね、ひとりでは不安です、私もいつか……」
首を横に振るニィナさん。
「私にはもうすでに最高のパートナーが出来た、心配は無用だ」
「その方はどちらにいらっしゃるのですか?」
「こちらだ」
僕を見たリィナはアチャーといった感じで両目を覆う。
「お姉様、とうとう……前々からそういうケはあると感じてはいましたが」
「いや違う、彼は十九歳だ、しかも勇者だ、誤解はするな」
「……ニィナお姉様をお願いします、姉の性癖を満足させられるのは貴方様しか居ないかと」
深々と頭を下げられる。
「な、なんの事かよくわかりませんが、わ、わかりました」
「デレス、今のは忘れてくれ、私が幼い少年にしか興味のない変態と勘違いされかねない」
「そ、そうですか、あは、あはははは……」
すまなそうな表情のリィナ、
僕はなんとなくニィナさんに捕まった理由の一端を理解した。
続いて男の子ふたり、上はさっきのリィナよりひとつかふたつ下か。
「姉上、残念です」
「ユース、男前になったな、私の趣味ではないが」
最後いま余計な事言ったよね??
「姉上が豪快さで行くならばと私が繊細さで勝負できるようになったのは姉上のおかげです」
「勇者と剣士ではやり方から違ってくるからな、今後も精進するのだぞ」
「はい、もし再会できる時がきたら、その時はさらに成長した姿をお見せします」
涙ぐみつつもしっかりした少年、やはり公爵家の息子か。
そして最後に一番小さい八歳くらいの少年、あ、ニィナさんが抱きしめた!
「ニィナねえさまニィナねえさまニィナねえさま!!!」
「キョース、ああキョース、元気でいるのだぞ、困った事があったらお姉ちゃんたちを頼るのだぞ」
「やだあニィナねえさまがいい、ねえおねがいかえってきてー」
「すまない、本当にすまない、だが行かなくてはならないのだ、私は勇者だ、勇者とはそういうものだ」
「じゃあぼくもゆうしゃになるーそしたらつれていってくれる?」
やさしい表情でキョースの頭を撫でるニィナさん、
普段から会うとデレデレなんだろうなという態度が見て取れる。
「勇者に負けないくらい強い男になれ、そうすれば認めてやろう」
「うんっ!ぼく、がんばるうっ!」
「みんな、元気でな、私は魔王を倒しに、そして幸せを掴みに行くのだ、笑顔で見送ってくれ」
そう言ったニィナさんも涙をこぼしている、
みんなも泣いている、僕ももらい泣きしそうだ。
「さあ、行こうか」
「は、はいっ」
ニィナさんに促されて僕も一緒に屋敷を後にする、
これで僕の背が高ければ胸でも貸してあげたいのに、
そう思いながらニィナさんにそっと寄り添って歩く……
「あの、その」
「おそらく妹弟たちは言われて引き留めに来たのだろう、だがわかってくれたようだ」
「あんなにたくさん、きょうだいがいたんですね」
「兄二人に姉二人、弟二人に妹二人だ」
「お、多い……そ、そうか、公爵家ですものね」
世継ぎを多くっていう事もあるけど、きっとこれは……
「私は第三夫人の娘でしかも母から生まれたのは私のみだ」
「じゃああとはみんな」
「腹違いだな、それでもきょうだいはきょうだいだ」
僕にとっても、血は繋がってなくてもリッコ姉ちゃんはリッコ姉ちゃんだったし、
イリオン兄さんだって無理してでも命を助けたい存在だった訳だから、
辛い別れだったと思う、でもちゃんとお別れする機会ができて、よかった。
「デレスはその、伯爵家以外の、実のきょうだいとかいたのか?」
「んーっと、多分いるような感じのニュアンスはちょこっと、いるような気配は」
「どういうことだ」
「僕が伯爵家に貰われた後、あと冒険者としても旅立つ時もですが、
アヴァカーネ伯爵家の当主さまに言われたのが『デレスの親兄弟を名乗る者が金をせびりに来るかも知れないが、
最初にもう十分すぎるほどの代金を支払ったので相手にしないように』って」
「なるほど、そういうことか」
実際来てたのかも知れない、僕の知らない間に追い返してくれてた、とかありそうだ、
わざわざ生まれ故郷がタルッキ村だって僕に教えてくれたのも、きっとそこへは近づくなって事なんだろうって解釈したし。
「それで、ドラゴン場へ向かっているんですよね?」
「そうなのだがその前に……この広場で良いか」
「な、何ですか?いったい何がはじまるんですか?」
アイテムボックスからプリンセスソードを取り出した。
「寸止めや手加減はできるな?」
「は、はあ」
「決闘だ、今後の大切な事を決める決闘をしよう」
何を言い始めるのだろう、脳筋タイプのこの女勇者さまは。
「お互い冒険者としても、男と女としてもパートナーとなった」
「そうですね」
夜にベッドで泣きながら誓わされた記憶が蘇る、いやなぜ泣いてたかは言わせないで!
「今後、対等な関係になるのかそうでないか、この決闘で決めよう」
「い、今更ですか」
「これは儀式とでも言おうか、ちゃんと一度は剣を交えないと気が済まないのだ」
仕方なく僕も、銅の剣を出す。
「……それで良いのか?」
「ええ、これしかないっていうかレイピアの方が良いなら出しますが、その剣となら」
「困ったな、ベルセルクソードを出してプリンセスソードを渡す手もあるが、それなら私が出加減できない
「いいですよこのままで、ハンデということで」
「わかった、とりあえずこれで勝負しよう」
お互い構える、が、僕は先に聞きたいことをたずねる。
「勝った方はどうなるんですか?」
「今後イニシアチブを取れる、とはいえ私も助けてもらった身だ、
もし私が勝てば今後は完全に対等な関係で行こう、もちろんリーダーとしての仕事はするし、
変な女から護りはするが、冒険者として、また男と女として対等にやっていこう」
「わかりました、じゃあ僕が勝ったら」
「……その時のお楽しみだ、では合図はコインでいいな、はじめるぞ」
「はい、いつでもどうぞ」
金貨が高く弾き飛ばされ、
地に着いた瞬間……僕らは動いた!
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