第18話 次への旅立ちと淫乱バーサーカー爆誕

 勝負はあっけなく決した。


「な!……なぜだ」


 信じられないといった表情のニィナさん、

 その首元には銅の剣が突きたてられていた、

 あとほんのちょっと押せば首に刺さるという距離だ。


「ひとことで言うと初動です」

「ばかな!私の動きが遅いというのか」

「踏み込みですよ、ニィナさんは巨大なベルセルクソードを使います、

 それを素早く振り回すにはどうしても踏み込みに力が入る、その時間がロスになります」

「そんな、一瞬ではないか」

「その踏み込みで方向がわかってしまうんですよ、あとはタイミング合せて振る前に入り込むだけです」


 下がってプリンセスソードを眺めるニィナさん。


「それはこの剣でも同じということか」

「クセになっているんでしょうね、あとは相手の問題です、

 イマーニさんが言っていた話から、あのでかい剣しか見てないんだろうなと、

 足元の動きを見たら避けられるのに、みんな剣に目を奪われ過ぎなんですよ」


 踏み込みを何度も確認するニィナさん、

 しかしクセというものはなかなか治らないだろう。


「よしわかった、次は魔法なしでやろう」

「え?まだ勇者魔法使ってませんよ、勝手に使われるもの以外は」

「そ、そうか、ではコインによる試合の合図なしでやろう」

「いいですょ……うわっ!危ない!いきなりすぎです」

「合図なしと言っただろ!」


 くるりと背後を取ってニィナさんの首に銅の剣をあてる。


「くっ……殺せ!お前に辱められるくらいなら……」

「何を演じてるんですか、それって襲って欲しいって事ですよね」

「冗談だ、それでは私が先に攻撃してからでいいか」

「いいですよ、来るとわかってやるんですから変わらないですけど」

「いざ、とうっ!」


 こうして何度も何度も決闘し……


「はぁ、はぁ、はぁ」

「僕の二十勝です、さすがにもういいですよね?」

「わかった、負けだ、私の完全な負けだ」


 僕がアイテムボックスから水を出してあげるとゴクゴク飲む。


「いいですよ無理してイニシアチブどうこうしなくても」

「……私がそうしたいのだ、夢だったのだ、私より強い男と愛し合える日を」

「じゃあなおさら対等で」

「そうはいかぬ、決闘だ、私はテレンスのような嘘つきにはなりたくない」

「それならどうするんですか……」


 プリンセスソードをアイテムボックスにしまう。


「ふふ、ふふふ、ふふふふふ……」


 ひょいっ、と僕をお姫様抱っこするニィナさん!

 さらにはスリスリ、スリスリしては何度も顔にキスしてくる!


「ちょ、ちょっと何するんですか!」

「これから当分、デレスを徹底的に愛し尽くす」

「そんな!まさかこのままドラゴン場まで」

「まだここでひん剥かないだけ理性はあるぞ」

「や、やめてー!さすがにこれは、やりすぎですって!」


 勝ったのにお仕置みたいな状況のまま運ばれる、

 まずい、ニィナさんの目がイッちゃっている、

 これは逆に、逆らったらまずいやつだ、と恐怖を感じはじめる。


「なんだあれ?でかい女がちっちゃい男を襲ってるぞ」

「あれって騎士団の『鋼鉄のバーサーカー』じゃないか!」

「あーあ、とうとうおかしくなったか、クビになったって噂だったからなぁ」

「こりゃまるで『淫乱バーサーカー』だよ」

「誰か通報しなくていいのか?あの男、食われちまうぞ」


 そんなギャラリーの話など聞く耳持たぬとばかりに、

 ドラゴン場まで蹂躙されたままついたのだが、

 入り口で騎士たちが、綺麗に並んでいた。


「ニィナ元隊長のご武運を祈って、敬礼!」


 キリッといた兵士もいれば、

 涙ぐんでいる兵士もいたり、

 笑顔で送り出そうとしたり、

 僕の事を心配そうに覗きこんでる人がいたり……

 さすがにニィナさんも真面目に返すかな、と思いきや僕の首筋に吸いついている、やめてー!


「勇者ニィナ様、こちらでございます」


 ドラゴン場の偉いさんみたいな人に誘導されて行くと、

 大きなドラゴンの背中になぜかテントが張ってある、なんだこれ?


「今回、国が気を使ってくれてな、次の行先、ルアンコ教国まで貸切だ」

「すごい、僕ら二人のためだけにですか?」

「ああ、ドラゴン便のチケットもいらないそうだ、入るぞ」


 テントの中にはなぜかマットが敷いてあって枕が並んでいる、これって!


「安心しろ、操縦するテイマーは私の騎士団時代、同期だった女性だ、多少うるさくしてもかまわん」

「な、なにする気ですか!」

「わかっておろう、声が漏れるのがそんなに嫌ならデレスの勇者魔法『サイレントヴィーナス』を使うといい」

「ニィナさま、お久しぶりです」

「ミリカ、私との仲だろう、さまはいらぬ」


 お姫様抱っこされている僕ににっこりほほえむミリカさん。


「えっと、あきらめてください♪」

「あ、はい」

「こうなったらニィナは、もう止められませんから」


 テントに入りしばらくするとドラゴンが上空を舞う、

 姿勢が安定すると早速、僕の服を脱がしはじめるニィナさん。


「さあ、到着するまでの間、たっぷり愛し合おうじゃないか」

「ちょ、ちょちょちょ、そんなまだ日も明るいのに!」

「逃げるか?どこへ?消音魔法をかけるなら今だぞ」

「うわ、あ、わ、わーーーーー!!」

「ふふっ、デレス、愛しているぞ」


 幼馴染で姉同然だった婚約者、剣士リッコを寝取られた僕だったけど、

 強くてたくましくも美しい女勇者ニィナを手に入れた、いや、ニィナさんに手に入れられてしまった僕、

 これから先、どんな仲間と出会ってパーティーを増やしていくのだろうか、

 そして、七大魔王を倒して平和を手に入れ、幸せになるのはいつなんだろう……

 とりあえずはこうしてニィナさんに身を任せよう、そして、そして、そして……


(やり直してよかったって、思える人生にするんだ!!)



 こうして草食勇者と淫乱バーサーカーの旅は、はじまったのであった。


第二章へつづく。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る