第13話 ポーター試験と理不尽教官
チュンチュン、チュンチュン……
小鳥さえずる朝、僕はベッドで全裸のまま、両手で顔を覆って……また泣いていた。
(うう、何もさせてもらえなかった……ニィナさんに一方的に、
あんなことこんなことされた……合意だったとはいえ……うううぅぅ……)
今回も情けない事に一方的に蹂躙された、
また思い出して震える僕は情けなさすぎて恥ずかしい、
覚悟を決めていたはずなのに、ちゃんと愛し合わないといけなかったのに!
(怖かった……でも、でも、すごく良かった……それが怖い……ううっ……)
浴室から戻ってきた大きな人影にまたもやビクッとする、
鋼鉄のバーサーカーと呼ばれる彼女の決してそうではない一面を思い出す、
あれは肉食獣、欲望に身を任せて貪り食う野獣のようだった、草食の僕は、なすすべが無い……。
「起きたかおはよう」
「は、はいぃ……」
「これを飲んでまあ落ち着け」
今日も紅茶の入ったカップを渡してくれる、
美味しそうな良い匂い、僕は起き上がって飲む……
その間にニィナさんが下着とか履きはじめたのを今日はそこそこ見る。
「さて、いよいよポーター試験だが、受かったらどうする」
「えっと、またダンジョンへでも行きましょうか」
「そうだな、まだ未開封のダンジョンはいくつかあった、駄目なら深淵の森の一番奥まで行こう」
チュッ、と僕の頬にキスするニィナさん、
照れる……ただ身長差のせいで高い所から勢いよく唇が来たので少し怖かった。
「一番奥には何があるんですか?」
「この国一番のダンジョンだ、魔王か準魔王クラス、奴が無傷なおかげで新しいダンジョンがボンボン湧いている」
「あー、それは大変ですね」
「近いうちに冒険者と衛兵騎士団が合同で攻略に行く予定だったのだが、私と二人で先に倒すのも面白かろう」
簡単に言ってくれる……
でも、あの驚異のレベルアップペースなら不可能じゃないかも?
「おそらくポーター試験は秒で終わる、四倍入るポーターバッグを用意した」
「あ、ありがとうございます」
「こんなものがなくてもアイテムボックスがあるのに……どうしても勇者である事は隠すか」
息子に困った母親のような表情だ、
実の母親の記憶はまったくないけど。
あるのはリッコ姉ちゃん、の事は忘れよう。
「ごめんなさい、僕のプライドみたいなものです、勇者を捨てるって」
「もったいないぞ」
「わかっています、でも、もう勇者の特権みたいなのは使わないって決めたんです」
そう言いつつ昨日まではなんだかんだ勇者の特権に甘える事もあった、
でも、それじゃいけない、その甘えが僕をダメにしてきたのだから……
「気分を悪くしたらすまないが、いじけてヤケになっているだけのように見えるが」
「とにかく自分はできる所までポーターとしてやります、まずは……とりあえずシャワーを浴びてきます」
「うむ、そうしてくれ」
朝食後、宿を後にし冒険者ギルドへ行くと待ち構えていたのは……
「やっと来たか、遅いぞ!」
「えっと誰でしたっけ」
「騎士団長のテレンスだ!本日のポーター試験、教官を務める」
あれ?冒険者の人は?と見回すと居た!
髭面のおじさん、イマーニさんだっけ、腕組んでこっち見てる、
と思ったら両腕を広げてどうしようもないって感じのポーズを見せた。
「ええっと、冒険者ギルドさん?」
受付嬢に聞こうとしたが朝で冒険者が並んでいて忙しそうだ、
勇者受付さえも五組か六組並んでいる、どうしよう、このおっさんが単なる不審者だったら。
「嘘ではない、我も暇ではない、そうだなニィナよ」
「ああ、この時間は本来なら騎士団はかなり忙しいはずだから、おそらく本当だろう」
「……テレンスさんがどうして僕の教官に?」
わざとらしく聞いてみる。
「冒険者ギルドと我ら衛兵騎士団は対等な協力関係にあるからな、こういうこともするのだ」
「はあ」
「ではまず自己紹介をしたまえ」
仕方ない、とりあえずは言う通りにしよう。
「はい、ポーター試験を受けさせていただきます、デレスです!」
「うむ、只今よりポーター試験を始める!」
近くの列で『ポーターに試験とかねえだろ』と声がしたがテレンスがひと睨みした。
「よし、まずは地下へ来い」
無理難題を言われる予感しかしないがついていく、
ニィナさんも一緒に来た、いざとなったら助けてくれるのかな?
とチラっと見ると表情が鋼鉄のバーサーカーモードになっている。
「今回、私は単なる見物人だ」
「そ、そうですか」
「奴も私がついてくる事に何も言わんからな」
イマーニさんはもう関係ないみたいでどこかへ行ってしまったっぽい。
「ではここに昨日狩られてまだ未解体のワイバーンが五体ある」
「はい」
「これを自力で全て持ち上げろ」
「わかりました」
「魔法ナシでな」
ええっ!!
「無詠唱でもわかるぞ」
「じゃあ無理です」
「はい不合格」
なんだそれは……
一体なら担げない事もないからそのままぶつけてやろうか。
「と言いたいが特別にチャンスをやろう」
「あ、はい」
「一体でいいから担げ」
何とか担ぐが、ふらふらだぁ。
「いいか、この状態でお前を攻撃する」
「ええっ」
「避け切れ、そうすれば合格だ、はじめ!」
ビュンッ!と木剣が横から僕を殴りにきた!
慌てて避ける、避ける、避ける、ぎりぎりだぁ。
「お、かすったぞ!不合格!」
「えっ?かすってませんよ?ねえニィナさん」
「他人に聞くな!我がかすったと言ったらかすったんだ!教官の、試験官の判定だ!」
絶対かすってない……
「よしワイバーンを下ろせ、次の試験だ」
「あ、まだチャンスあるんですか」
「今からポーター体操を行う、マネしてついてくるように」
なにそれちょっと興味ある!!
「では行くぞ」
「はい教官!」
両足を揃えて爪先立ちを繰り返しリズムを取っている、僕もマネする。
「はい右腕上げて左腕下げて、右腕下げて、左腕上げて」
解体師さんが何やってるんだって顔で見てきて辛い、これも試験の一環か。
「がに股開いてローリング、あ右回り、左回り、腰をふりふりフンガフンガ」
「こっ、こしを、ふりふり、ふがふがっ!」
「切れが甘い!もっとキレキレで!」
「はいっ教官!」
「フンガフンガッ!」「フンガフンガッッ!!」
素で笑ってるニィナさん、鋼鉄のバーサーカーはどこ行った!
「はい不合格!」
「なんで?!?!?!」
「心がこもっとらん!!」
できるああああああああああああああ!!!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。