第3話 拒絶


ねぇ風翔。


初デート、いつどこでって、覚えてる?


あたしは覚えてるよ。





12月28日


ディズニー映画ベイマックス観たよね。


クリスマスパーティーのあの日


LINEの連絡先を、半ば無理やり交換した。


結局風翔からは、LINEは来なかった。


待てど暮らせど、メールは来ない。


だからあたしがあの日連絡してなかったら、


あたしたち、なんにも始まらなかったんだよね。


風翔も「年齢のわりに」背は高いんだけど


あたしは165cmで、ヒールのあるブーツ履いちゃったから170cm超えちゃって。


顔もまだあどけない、子ども。


あたしたち、姉と弟みたいだったね。


「手つなご」って言っても、


「え……」って周り気にして、繋いでくれなかったよね。


映画観てる時も、あたしはドキドキしてた。


思い切って手繋いでみたら、


こっちチラッと見て、恥ずかしそうに俯いてたよね。


映画観なさいって小声で言ってもさ。


そわそわ落ち着かなくて


そんなあなたが可愛くて愛しくて


胸が苦しくなった……。


好きすぎて、あなたを壊したくなっちゃった。


あなたも大きくなったらこの気持ち、わかると思うよ。


ちっちゃい子猫ちゃん見て、食べちゃいたいってなるぐらい、


可愛いって思うことない?


そんな感じ。


あなたがポップコーン落として、同時に拾おうとしたら


お互い頭ゴチン!ってぶつけたよね。


上映中だから静かにしなくちゃいけないのに、


二人でクスクス笑っちゃったよね。


あなたがあんなに笑ったのを見たのは、


これが初めてだったんだよ。


あの日あたしがデートに誘っただけで、


付き合うとかそんな話、してなかったよね。


あたしはあなたの気持ちを無視して暴走してた。


今はそれを反省してる。


だから、別れちゃったんだよねきっと……。


帰り道、誰もいないあの道で、


またキスしたよね。


「キスしていい?」


って聞くと、またあの困った顔。


「えぇ……な、なんでまた……」


初めて会った時のような


人を見下すような、睨みつけるような目つきは全くなかった。


逆に、人間に慣れてない野良猫みたいな目になってた。


威嚇しようとするんだけど、どこか不安げ。


いつ逃げ出そうかって、今にも走っていっちゃいそうな感じ。


それが今思い出すと悲しい。


あんなに弱々しかったのに……。


また会いたいよ。




1月




年が明けた。


初デートの後も、結局全然LINEしてくれない彼。


いつもあたしから。


まだ中学一年生じゃ、仕方ないのかな?


冬休みは、風翔が熱出したり、


あたしもインフルかかったりで、全然会えなかった。


初詣も、風翔は友達と行くって言うから行けなかった。


会えないって、こんなに辛かったんだ。


冬休み明けてから、なんとか時間を合わせて


家族がいないという日曜日に、


彼の家に行く事になった。


彼の家で、ワックスつけてツンツンヘアーにして遊んだり


あたし好みのクールな服を着せて写真撮ったり


凄く楽しかった。


眉毛も剃ったり切ったりして整えてあげて


あたしが買った洋服着させたりして遊んでた。


サングラスにネックレスにキャップ


「ちょっとこれは恥ずかしいですよ」


照れ笑いをする彼に胸がキュンキュンする。


早く大きくなって、


あたしをグイグイ引っ張ってくれる男性に育って。






「正式に付き合ってくれる?」


1月12日


あたしは思いきって言ってみた。


キスとかしといて今さらだけど


ちゃんと恋人同士になりたかったんだ。


彼はニコッと優しく笑って


「……はい。あんな事しといて付き合ってないとか変ですよね」


はにかんだ笑顔。


涙をこらえるのに必死だったから、あたしすごく変な顔してたと思う。


やっぱり年下は純粋。


うちら高校生は、ヤルだけヤッといて、


アイツとは付き合ってなんかないとか平気で言うクソ男が多い。


一生あなたを幸せにしてあげたい。


たまらなく涙をポロポロ流すと、


彼が抱きしめて背中ポンポンしてくれた。





初めて会ったあの日


あんなに睨みつけてきたあなたが


こんなに優しい笑顔を見せてくれるようになった。


大好き。


一生離れないで。





1月16日


運命は、残酷だった。


付き合い始めた四日後。


生まれて初めて、彼からLINEが来た。


意味不明な言葉の羅列。





「ごめんなさい。やっぱり別れて下さい」


「俺、ある組織に入ってて」


「あなたを巻き込みたくないし、L先輩にも別れろって言われた」


「から、ブロックするね。本当にごめんなさい」





そして、いくらあたしがメッセージを送っても


ずっと未読だった。

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