あなたはだれ?

あいみ

第1話 風


あなたはだれ?


あたしは愛美。


高三のLJK。


あなたのお名前は?





10月 祝日





その日、あたしの母校の、中学校の体育祭に行った。


実は、あまり行く気はなかった。


今は、中学時代の同じ部活の後輩、


高一の由美から来て下さいよ~とLINEがきて


友達はみんな受験勉強で遊んでくれないから


渋々行くことにしたんだ。


…って、あたしも受験生なんだけどね。




由美と、中学時代の部活の昔話に花を咲かせていると




「あ!ちょっと待ってて下さい!」





突然、その由美があたしを制止して


グラウンドの方へ、走り出した。


由美の弟が、リレーに出ているらしい。





中学一年生。


ついこの間まで、ランドセル背負ってた子供。


あたしは一人っ子だ。


兄弟姉妹がいる友人がいつも羨ましかった。


しかも弟だなんて、凄く可愛いんだろうな。





特に居場所もなくなったあたしは


由美についていき、舞い上がる砂埃の中


「どれどれ?どの子?」と捜す。





由美「あれ!黄色のゼッケンの1って書いてあるやつ!」





え、あの子…?


やたらと、背が高い。


足も長い。


本当に中学一年生…?


しかも、一人、二人、軽々と抜いていく。


歓声、応援の声があがっている中


あたしの世界だけは、静寂に包まれていた。


思っていた「弟」という言葉とは程遠い


「男」が、そこにいた。


走っているから、顔は良く見えなかったけれど


一人だけ、ただならぬオーラを放っていた。





まさに、「風」だった。





そして見事、1着でゴール。


アンカーだったのか。


アンカーって確か足が速い人がなるものだよね。


かっこいい。


なんで体育祭で運動神経抜群の男って


こんなに輝いて見えるんだろう。





「あ。お姉ちゃ…姉貴」





リレーが終わって、体育館沿いの日陰で涼みながら話していた由美とあたしの所に


さっきの男の子が友達と一緒に、こちらに気づいた。





あたしは、息を飲んだ。


あたしより背が高い。中学一年のくせに。


一緒に歩いてる友達が、まるで彼の舎弟のよう。


顔はとんでもなく整っていた。


目は大きすぎず、キリッとしたクールな印象。


体つきも、痩せ型だけどガリガリではない。


中学生はとかくニキビに悩まされがちだけど


砂と汗で汚れているのに、


彼の肌があたしより綺麗なのがわかった。


サラサラした黒髪が、フワリと風に靡いた。


さっきのリレーの勇姿を見たから?


心臓が早鐘のように鳴る。





あたし「あ、初めましてー!弟さんだよね!」





いや、こちとら恋愛経験豊富な高三だ。


それなりに、垢抜けたイケメンなんて同じクラスに何人もいる。


あなたのこと、何とも思ってないよ的な振る舞いで、軽く挨拶をしてみた。





彼「・・・どうも」





鋭い眼光。


ふてくされたように、


気だるそうに、


髪の毛かけあげながら、あたしを睨みつけて挨拶してきた。


あの顔は、未だに鮮明に覚えている。


ムカつく!とか


生意気なガキめ!とか


不思議なことに、腹立つ事はなかった。


むしろ陰がある眼光に射抜かれて


息が詰まりそうになった。




由美「ご、ごめんなさい…いつも風翔ってば無愛想で」



風に翔ぶと書いてふうとくん……っていうらしい。


ちょっと変わった名前だけど、かっこいい。





あたし「ぜーんぜん!てか背ぇ高!」


由美「そうそう。もうすぐ170とか!良く先生と間違われるもん!顔はガキのくせにな!」


風翔君「…………」




一応彼は立ち止まってはいたけれど、友達の手前


あたしたちと話してるのを見られたくないかのように歩き出した。


それでも、大勢の女子中学生たちが遠巻きに見ていた。


ファン達…なのだろうか。


こんな目立つイケメンがいたら、例え中一だろうとファンはいるだろう。


しかも無愛想ときたら


容易く話しかけられないから余計に恋心は募るばかり。


すぐ帰るつもりだったのに


あたしはずっと彼を探しては、目で追い続けた。


他の男の子達は、みんなギャーギャー笑って騒いでて、本当に子ども。


だけど、彼だけは違った。


背が高いだけで目を引くのにクールイケメンで


一人だけ、冷めた目をしていた。


時々友達に話しかけられたら笑うけど


その笑いも冷めてる感じ。


周りとは一線を引いてるというか、


世の中を見下してるような。


彼には何か、大きな影がある。


それがまた、余計に胸をざわつかせた。




この時の予感は




当たっていた。



彼は大きな運命に翻弄されていた。



そしてこのあたしも



彼の運命の渦に巻き込まれるなんて



この時は全く予想もしていなかった。

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