第2話 お前は誰だ




12月24日。


クリスマスイブ。


10月の体育祭から2ヶ月経った今も


あたしは由美と、連絡を絶やさなかった。


2ヶ月間、風翔の事が気になり続けていた。


もちろん由美にはその事は伝えていない。


利用しているような罪悪感に、耐えられなかったからだ。


あたしは今は、彼氏がいない。


由美には、同じクラスの彼氏がいた。


でも由美も彼氏もは中学三年生。


受験勉強だ塾だと大忙しで、


クリスマスデートどころではない。





由美の家は父子家庭。


母親は生きているけれど、出ていったらしい。


両親健在で、夫婦仲もそこまで悪くない、


至って平々凡々な家庭環境のあたしには


他人の複雑な家庭事情は、あまり突っ込んで聞けなかった。


父親はいつも帰りが深夜になるし、ほとんど由美と風翔、二人きりだそう。


とは言っても、風翔は家でもあんな性格。


由美と風翔は仲がいいとは言い難いものだった。


両親がいないこと。


それをいい事に、由美の家でクリスマスパーティーをする事になった。


風翔は部活に入ってるとはいえ、19時頃には帰宅するらしい。


約束は19時。


それから3時間も居れる。


やっと、風翔に会える。


ヘアーアイロンをかけたり


メイク道具もデスクの上に大量に並べ


あたしはずっと鏡と睨めっこをしていた。


風翔はメイクバリバリのケバい年上は嫌いだろうか?


ナチュラルメイクの方がいいのだろうか?


いや、風翔の周りにいる、オシャレする事を許されない女子中学生達とは格の差を見せつけたい。


ガッツリメイクして、大人の色気で攻めるしかない!


……って。


あたしは5つも年下の彼が好きなの?


ちょっと前までランドセル背負ってた小学生の事を…?


今日会えば、きっとわかるはず。


この前はろくに話せなかった。


今日はパーティーだから話せるはずだ。





18時50分。


早めに着いてしまった。


あたしの左手には、由美へのプレゼントと風翔へのプレゼント。


由美にはETUDE HOUSEのアイシャドウパレット。


風翔には、ノーブランドの黒いマフラー。


あくまで、「由美と遊ぶのが目的」というのを強調したくて


プレゼントは、差別化を図った。


チャイムを鳴らすと、意外にも風翔がお出迎え。


予想しなかった展開に、オドオドしてしまった。


彼はあの日のようにジロッとにらみつけて


「どうも」


と、面倒そうに言った。


愛想のひとつもない。


あたし「う、うん!久しぶり!覚えてる?体育祭の時会った、愛美だよ」


風翔「……はい、どうぞ」


かったるそうに、家に上がるよう促す。


しかも歩きながら「はぁ~……」という溜め息まで聞こえてしまった。


自信が一気にしぼんでなくなった。


あたし……なに意気込んでたんだろう……。


しょんぼりしながら、クリスマスパーティー開始。




普通にテレビ見ながら、普通に話して、普通にフライドチキンやピザを食べる。


風翔は……冷たい。


一応は、同じリビングに居てはくれている。


でも彼は、背を向けてチキンをかじりながら


ずっとスマホに目を落としていた。


あたしが何か話しかけたり、冗談とか言っても


愛想笑いはするけど目が笑っていない……。


ケーキを食べて、シャンメリーで乾杯。


テレビではクリスマス特番の、音楽番組がやっていた。


SEKAINOOWARIが出た瞬間


スマホしか見ていなかった風翔が突然、顔を上げてテレビに食いついた。





あたし「セカオワ好きなの?」


風翔「……はい」


あたし「いいよねセカオワ!何の曲が好きなの?」


風翔「……正義って何だろうってところ」


あたし「……?」





そんなタイトルの曲、あったっけ?


由美が突然、


「明日終業式だし早く寝たいからお風呂入ってきまーす!」


とリビングを出て行った。


二人きり。


今しか……ない?


拒否られても、殴られても、


風翔が由美にチクってもいい。


そんな覚悟があった。


勇気出せなくて何も出来なかったとしたら、


絶対に後悔する。


今日を逃したら、二度と会えない


そんな、気がしていた……。





「キス……してもいい?」





彼は初めて見せるキョトンとした顔で


「はい!?」


と、今日初めてあたしの顔を、真っ直ぐ見てくれた。


その顔がたまらなく愛しくて可愛くて


見つめあったまま


じりじりと近くに寄った。


こんな近くで風翔の顔を見たことはなかったけれど


ものすごく綺麗な顔立ちをしている。


眉毛をカットしてもう少し整えて


髪ももっと伸ばしてしっかりセットしたら


今どきの流行ってる、若い俳優の子達に引けを取らない。


顔を近づけても、彼は逃げようとしなかった。


これはOKってこと?





軽く、唇が触れた。


風翔は、石像のように固まったまま動かない。


まだ、中学一年生だ……。


彼は顔を真っ赤にしながら、呆然としていた。


「な、なんで……」


あの冷たかった彼の瞳が


心なしか潤んでいた。




「好きなの」




風翔はようやく目を逸らして、答えに困ってる。


もう一度、顔を近づけると




「いたっ」


「ご、ごめんなさい!」




風翔があたしを突き放そうとして、


あたしの胸に思わず触ってしまった。


風翔はすぐに起き上がって、あたしから逃げるように距離を置いて


部屋の隅に体育座りする彼。


「無理?」あたしが聞くと


「好きでもないのに……無理です」


心なしか、目が潤んでいた。


「わかった。じゃ、好きにさせてみせる。今度デートしよ?」


彼はまた「何言ってんの?」とでも言いたげに、目をまん丸くしてあたしを見た。



ふと、あたしの手元に彼のスマホが落ちていた。




ちょうどLINEのトーク画面が開かれていた。




由美がお風呂から出てくる前に、LINEの連絡先を交換しなくちゃ!


そして、彼のスマホを手に取ると


誰かとのやり取り。


彼女……ではない。


同級生との会話かな?


でも相手は


とてもじゃないけど


友達とは思えない言葉を


風翔に浴びせていた。








「お前は誰だ」



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