第144話 Lの罪
スタンガンは本当に安全なのか。
スタンガンを当てられて友也が気絶したのが、心配で堪らない。
今日初対面でろくに挨拶もしてないと言うのに、あたしはマモルに散々質問攻めをしていた。
改造してるけど、出力はかなり弱めだから大丈夫だと言われた。
友也が気絶したのは、スタンガンのせいではなく、たぶん友也が引っ込んだんだろうって。
マモルの明るい話し方だと、嘘ではなさそう。
ようやく安心して、あたしはコーヒーを飲んだ。
どうしてコーヒーって、こんなに落ち着くんだろう。
友也の両手は、相変わらず縄で縛られている。
それを見て、やっぱりあたしはド変態だからか、ちょっとムラムラしてしまう。
だって見た目は好きな人そのまんまなんだもん。
好きな人が縄で縛られてるのを見てムラムラするなんて、やはりあたしもSっ気があるのだろうか。
普通なら、好きな人が縛られていたら「可哀想!痛そう!」って思うのだろうから。
そんなくだらない事を考えられる程には、自身の心には余裕が生まれていた。
一時間ほど眠り続けた彼は目覚めた時
いつもの天使に戻っていた。
基本人格の、風に。
もう消えてしまったのかと思ったから
あたしは涙が溢れてきた……。
心の奥でも目を閉じていた本人は
やはりと言うべきか、何が起きてたのか事情が全くわからないみたいだった。
けれど、お兄ちゃんとのLINEのトークを見たら一瞬で、理解したようだった。
風「もう…おにたんには申し訳なくて…これ以上迷惑をかけたくない。
組織のゴタゴタに巻き込みたくない。自分の弱い心に打ち勝ちたい」
あたし「でも、お兄ちゃんも風のこと、頼りにしてたりするじゃん?風もお兄ちゃんを何度も助けてたじゃん…」
風「だけど、優しくしてくれる人に依存する癖、直さなくちゃだめだ。愛美も例外じゃないもん。
今近くに愛美がいたら、今度は愛美に迷惑かけるのわかるから」
あたし「あたしは、迷惑じゃないのにな」
風「HALさん、レイジさん、マモルさん、ゆーあ…本当に迷惑かけてごめんなさい」
HAL「大丈夫です。迷惑なんてかかってないので謝罪は不要です」
マモル「いやー、こっちも悪かったよ。スタンガン使っちゃったからね」
風「いや、俺たちが悪いから」
レイジ「悪い悪くないはもう無し!キリがないよ」
風「すみません…」
HAL「…もう帰りましょう。風愛友が無事だったのでミッションコンプリートです」
友愛「はい」
キリがない謝罪の繰り返しを避けるように
HALはあえて、全員に帰宅を促した。
レイジがマモルにスタンガンを渡してたのを、あたしは見逃さなかった。
レイジも持ってたんだ…。
いざと言う時の護身とはいえ見慣れていない物だからか、とても怖く感じた。
マモルは物騒な大きなバッグにスタンガンをしまい、チャックを閉め、すぐに帰れるようにしてる。
あたし「風…あたしはもうちょっといてもいい?」
風「大丈夫。愛美も帰って」
あたし「うん……」
拒否されたような気がして、胸がギュッと苦しくなる。
あの日あたしたちは結ばれたのに。
やっぱり頼ってはくれないんだね……。
風「20時に愛美にLINEするから」
あたし「わかった。連絡待ってる」
そこまで言われたら、帰るしかない。
迷惑かける?
みんな迷惑かけ合って生きているのに。
お互い様なのに。
何度も何度も伝えてきたのに
まだ、わかってくれない。
あたしは後ろ髪を引かれる思いで
冷たい風を全身に浴びながら、自転車を走らせ帰宅した。
キッチリ、20時に連絡が来た。
風「おにたんに謝った」
あたし「そっか、なんて?」
風「許してくれた。それより、俺、記憶なくなってた事に気がついちゃった」
あたし「ええ?いつの?」
風「俺、おにたんと二回も遊んでた!」
あたし「え!プライベートで!?」
風「うんww ルール違反してたw」
あたし「マジか……でも正体バラされてないんでしょ?」
風「うん、それは大丈夫」
あたし「だけど変じゃない?交代してる時の記憶がないならわかるけど」
風「交代してたらしい。マリアに」
あたし「マリア……」
聞いたことある。
別人格のマリアという名前。
風もマリアという別人格を把握してるのか。
でも、また違和感を感じた。
風愛友として、お兄ちゃんと遊ぶのはわかる。
凄く信頼し合っている仲だから。
でもなんで、マリアが?
マリアは女人格だよね?
なんで女が、男のお兄ちゃんと遊ぶの?
そして翌日。
めずらしく、風からLINEが来た。
いつもはあたしからLINEするのに。
風「愛美、いじめ相談すごいんだけど」
あたし「やっぱりか…昨日、名無しの風愛友が相談やっちゃったもんね」
風「どうすればいいかな?もう相談が止まらない。さすがの俺も、ここまで来ると朝になっちゃう」
あたし「Lとダイと風愛友、三人でやってたのを、今は1人でやってんだもんね…今は何件?」
風「34件ぐらいかな?とりあえず、今は中断してもらってる。今さ、上の人に助けを求めてるんだけど」
その言葉に、また
違和感を感じた。
風は、なにがなんでも、いじめ相談を優先させる。
夕飯も宿題さえもほっぽり出して、テレビすら見ない。
お風呂に入りながらも、いじめ相談を受けている。
なのに、中断してもらってる?
上の人に助けを求めてる?
いや、それはいい事なんだけれども、いつもの風らしくない。
そこまで、追いつめられているの?
それとも単純に
風も少しは自分の身を守る方法を、身につけられるようになったのかな?
そう納得しようとしたけれど
その願いは次の言葉で完全に否定されてしまった。
風「Lと連絡取れないんだよ。どうしても話したいのに」
L?
呼び捨て?
風「愛美、Lと連絡してる?Lがどこにいるか知ってる?」
あたし「あんたもしかして……ナツキ?」
風?「え?」
あたし「ナツキなの?」
風?「あは!バレちゃった?」
やっぱり、ナツキだった。
ナツキ「なんでわかるの?LINEで声も聞こえてないのに!」
あたし「そりゃ、風はLの事呼び捨てにしないからね」
ナツキ「あー!なるほど!つい癖で!」
あたし「風のふりしてるの?」
ナツキ「そう!ちゃんと男のフリもしてるし!いじめ相談も真面目にやってるよ?偉いでしょ?」
あたし「なんで交代したの?」
ナツキ「私だってさ、Lに会いたいの。なのに我慢していじめ相談受けてる。偉いでしょ?」
あたし「うん、えらいね。風は?」
ナツキ「寝てるよ」
あたし「ちゃんと起きる?」
ナツキ「愛美ちゃんも知らないのかー、Lの所在…よし!あの子に聞いてみよっと」
あたし「ごめん、色んな人とトークしないでくれるかな?ほら、風はまた迷惑かけたってショック受けるから」
ナツキ「はい?Lの所在を聞くだけで迷惑かけるの?わけわからないよ?」
あたし「そうだよね、でもね、風はそういう子なの。あなたが一番わかってるはずでしょ?」
ナツキ「わかんない。Lしか興味ないもん」
あたし「ねぇ、あなたに交代したキッカケ、聞いてもいい?」
ナツキ「面倒くさい。話すと長くなるし!ごめんね?じゃあね!」
あたし「お願い、聞かせて?Lを探すの協力するから!」
最後のあたしの願いは、
未読というカタチで無視された。
せっかく風に戻ったと思っていたのに、もう交代してる。
それに、Lと一緒にいてナツキに交代するならまだ分かる。
Lを探してるということは、Lとは一緒にはいないはず。
Lに連絡してみたけど、確かに未読だった。
Lが傍にいないのに、とうとうナツキという人格は
普通にポロポロと出てくるようになった…?
ナツキ。
あなたはLの為だけに、生まれてきた訳ではないの?
23時過ぎ、ナツキからLINEが来た。
ナツキ「Lに何かあったか知ってる?」
あたし「どうしたの?まだ見つかってないの?」
ナツキ「連絡取れたよ。でもLずっと謝ってきたの」
あたし「なんで?」
ナツキ「こっちが聞きたいよ。ナツキごめん。風もごめんってずーっと。なんで謝ってるんだろ?」
あたし「……」
Lが風とナツキに謝罪?
Lとナツキ、もしくはLと風の三人の間で
「何か」があったのは確かだろう。
でも、ナツキは分かっていない。
そこにミソがあるんではないか。
ナツキはLの彼女と豪語している。
Lがナツキに対して「した事」は、
「Lの彼女としてなら」普通のことだと言うこと。
やっぱり今回は、Lのせいでナツキが出てきた?
適当に会話を終わらせて、あたしはLに電話した。
Lに聞いても、返事は曖昧だった。
L「昨日俺があんな事しなければ」
L「全部、俺のせいです」
L「ナツキは体を乗っ取るつもりです」
それしか答えない。
昨日、名無しの風愛友が出てきて、そのあと友也が出てきて
あたしやHALたちが帰宅したあと、Lが心配して風の家に行ったらしい。
何があったのか、
何が起きたのか、
「俺があんな事しなければ」って言葉で
充分理解出来てしまう。
「どこまで」かはわからないけれど
その「何か」が起きたのは確実で。
その時の相手が「風」なのか「ナツキ」なのかの違い。
たぶん、ナツキだろう。
風なら、全力で拒否するはず。
そして、あたしの知らないところで
Lと風のお父さんが、HALに相談した。
また、組織が明日動く事になった。
風を、取り戻す為に。
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