第147話 DAIの告白


「マリアって子、知ってる?」




心臓に冷や水をかけられた気がした。


風が挨拶もなく突然送ってきたLINEには、


風自身が忘れているはずの、マリアの名前が出てきたからだ。




あたし「まぁ、うん。会ったことはないけど噂は聞いてるかな?」


風「そっか…マリアが、目を閉じると、俺の目の前にいるんだ。

真剣な顔で、正座して、俺に話しかけてきたんだ。

そこまで忘れさせるつもりはなかった。

いらないものだけ消そうとしたら、失敗して全部消しちゃった。ごめんねって」


あたし「マリアが、記憶を消したの!?」


風「本人は、そう言ってる」


あたし「そんな事出来るんだ…」


風「まぁいいや。ごめんね急に。課題やるからまたね」


あたし「え、あ、うん」





記憶喪失は大丈夫なのかな。


でも今日はお父さんが22時に帰宅するらしい。


さすがにお父さんも心配してるみたい。


お父さんが早く帰宅するのは、安心。


あたしは最近寝不足続きだから、早めに寝ることにした。


夕飯もお風呂も早めに済ませて、さっさとベッドに潜り込む。


寝転びながらLINEを開くと、もんのすごーーーくめずらしく


DAIがタイムラインを出していた。




「まじめんどくせー」




みんなビックリスタンプ。


そりゃそうだ。


DAIがタイムライン出してるところなんて見たことない。


めずらしく出したと思ったら


「まじめんどくせー」のひとことなんて。


怖い怖い。


やっぱ、彼女の事かな?


DAIの彼女は、少々難アリらしい。


なんというか、THE 女って感じ。


いじめ相談でも、何度か名前が挙がってきたぐらいの。


とにかくDAIが大好きで、とにかく陰湿で、


とにかくDAIをひとり占めしたい彼女さん。


それだけ好きなのはわかるけれど…。


女の嫉妬って、なぜ女に向かうんだろう?


彼女はダイが話してる女の子全員を敵視して


悪口タイムラインを出したりしてるらしい。


DAIはずっと、彼女の束縛にウンザリしていた。


「まじめんどくせー」のタイムラインに、


風が「何かありました!?」とコメントしている。


DAIは「風愛友久しぶりだな!ちょい個チャきて」


そう言ってそのコメント欄は静かになった。


二人で話してるのか。


さすがにタイムラインのコメント欄で話したら、DAIの正体バレちゃうもんね。


あたしもちょっと気になる。


タイムライン出したぐらいなんだから、聞いてみてもいいよね?




あたし「タイムライン見たけど何かあった?」




すると10分後ぐらいに返信来た。




DAI「お。愛美さん久しぶり!今から風愛友んち行くんだけど愛美さんも来ます?」


あたし「全然行くつもりなかったけど、ダイが今から行くと言ったから行くわ」


DAI「おけ!決まり。じゃ先に行ってますねー」




タイムラインの事は無視かい。


時計を見ると、もうすぐ20時。


風のお父さん二時間後ぐらいに帰ってくるじゃん。


まあいっか、近いし。


お風呂入っちゃったからモロスッピン。


もちろんメイクもせず、親にはコンビニ行ってくると嘘ついて出た。




風の家に着くと、DAIと風の楽しそうな笑い声が家の中から聞こえた。


何か嫌な事があったとは思えない。




DAI「お!愛美さん久しぶり!」


あたし「おひさー!ダイも元気そうだね」


DAI「俺はいつも元気よ」


あたし「さっきのタイムラインは?」


DAI「あー、いつもの事っす」


あたし「彼女?」


DAI「はい」


風「俺のとこにも相談3人から来てた。DAI先輩の彼女から悪口言われてるって」


DAI「その事、彼女に言ったわけよ。そしたら言ってないってすっとぼけるわけ。

しつこく問いただしたら、私は言ってないけどみんなが言ってるよって。

最終的には、色んな女子と話すお前が悪いみたいに開き直られて」


風「いじめしてる人の常套句…私だけじゃない、みんなも言ってるって…」


あたし「卑怯だね。みんなも悪口言ってるから、私は悪くないってか」


DAI「で、彼女の周りがほんとに言ってるのか聞いてみたわけよ。そしたらみーんな言ってないって」


あたし「マジか」


風「本当に言ってないか。もしくはその子たちも身を守るために嘘ついてるか。

……俺的には前者だと思いますけどね」


DAI「なんで?」


風「普通、他人の彼氏が女の子と仲良くしてても自分には関係ないし興味無い。

ダイ先輩の事好きで彼女から奪いたいのであれば可能性はあるけど、ダイ先輩の彼女の友達、ほぼ彼氏いるじゃないですか。

もうひとつ可能性があるとしたら、言いふらしてる彼女の友達がダイ先輩と仲良い女子が嫌いでみんなでいじめようとしてるか。

でもその線も薄い。その相談者みんな、ダイ先輩の彼女の友達とは全く関わりない人ばかりだから。

学年もクラスも部活も委員会も違う人ばかり。だから俺はダイ先輩の彼女の単独行動だと思います」


DAI「てか、風愛友の推理、マジですげーな」




風、推理力というより


心理学でも勉強してるのか?


感心していると、風がコーヒーを出してくれた。




DAI「もー別れるわ」


あたし「別れるのか…その方がいいかもね。とか言ってそれを口実にしてるだけで、他に好きな人出来たとかなら怒るよ」


DAI「えー怒られちゃうかー!」


あたし「えっ!もしや図星!?誰よ!」




DAIが風のほうを見た。


風はダイの視線を感じて、ビクッとした。


ちょ、


勘弁して。


これ以上風を振り回さないで。


せっかくLと菜月が合意して、


風が基本人格として戻ってきたのに!


今度はDAIの彼女っていう人格が生まれたらどうするの!


そして、申し訳なさそうな顔であたしを見た。




DAI「愛美さん」


あたし「それ以上言うのはやめなさい」


DAI「なんで」


あたし「風が他の人格にまた乗っ取られるよ?」


DAI「いや、それはないっしょ?ユウトも出なくなるかもよ?それは愛美さんには申し訳ないけどさ」


あたし「なんでユウト?」


DAI「俺と付き合ってみる?」




ん?


DAIは風を見てない。


あたしを見て、言った。




あたし「へ?」


DAI「言ったじゃないすか、前。俺愛美さんみたいなのがタイプなの」




風じゃなく、あたしに言ってるの!?




あたし「ちょ、意味不明!好きですとかじゃなくて俺と付き合う?ってどーゆーこと!?」


DAI「え。じゃ、好きです」


あたし「取ってつけたように!?」


DAI「いいよな、風愛友?愛美さんのこと家族みたいに大切だけど、恋愛感情はないんだもんな?」


風「え?あ、はい……」


あたし「いや!待って!あたしと風はこの前結ばれたの!身も心も!」


DAI&風「え!?」


あたし「え!?って何その顔!ダイはわかるけど!風もいくら恥ずかしいからってとぼけかなくていいから!」


風「いや、え?なんの話…?」




覚えてない!?


そうだ!


風は2月からの記憶が全部なくなってるんだ!


マリアのせいで!


なんてこと!


あんな素晴らしい想い出をなかった事にされたなんて!!


あたしは絶望感いっぱいになり


その場に崩れ落ちた。

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