第8話 解離性同一性障害


解離性同一性障害。


昔は多重人格障害と言われていた。


一人の人間の中に全く別の性別、性格、記憶などをもつ

複数の人格が現れる神経症。


解離性同一症とは、かつて多重人格障害と呼ばれた神経症で、


子ども時代に適応能力を遥かに超えた激しい苦痛や体験による心的外傷などによって、


一人の人間の中に全く別の人格が複数存在するようになることをさす。


非常に大きな苦痛に見舞われたときに起こることがあり、


実際に痛みを感じなくなったり、


苦痛を受けた記憶そのものが無くなることがある。


これは、苦痛によって精神が壊れてしまわないように防御するために、


痛みの知覚や記憶を自我から切り離すことを


無意識に行っていると考えられている。


他人から見ると、外見は同じ人であるのに、


まったく連続しない別の人格がその時々で現れ、


性格や口調、筆跡までもが異なるので、


性格の多面性とは別のものであることに注意する必要がある。


発生の原因や進行過程など研究途上のため、


治療法が確立していないのが現状。





一人の人間の中に全く別の性別、性格、記憶などをもつ複数の人格が現れる神経症。


解離性同一性障害というのは


夢物語でもなく


小説や映画の中のファンタジーでもなく


本当にある症状だった。


あたしも「エンターテインメントとして 」


そういう物語は見たことがある。


うっすらと、そういう病気があるんだろうなぁ


と思ってたぐらい。





風翔は大丈夫なのかと心配するよりも


あたしは帰宅してからずっとスマホで調べていた。


さっき起きた事を、改めて理解する為に。





全部あてはまった。


今日起きた事、全部。


完全にあの顔、話し方、性格、


全て全て違う人間だった。


他のサイトも全部読み漁った。


もう朝の5時だ。


さすがに寝ないと……。


お風呂に入って歯磨いて、


アラームをかけようとスマホを手にした瞬間


奇跡が起きた。





「昨日はごめんなさい」





風翔からだ!


ブロック解除してくれた!





「あたしもごめんなさい」


即返信した。


Lが言うように、友也が言うように


あたしがストレスを与えてしまったから、あんな事になったんだ。


でもね。


あたしは今日Lに言われた


「さようなら」って言葉


絶対聞けないよ。


今日見た、ローテーブルに散らばった


何種類もの薬。


あれを毎日飲んでるとしたら、誰かが守らないと


何かのキッカケで、自殺しかねない。


友達を失った彼が、命の大切さを一番よく分かってる彼が、


そんな事はしないはず。


でも、人格が変わった時はわからない!




「ありがとう」




風翔から、ひとことだけ来た。


これで話を終わりにしようという合図かのように


たったのひとことだけ。


風翔に色々と聞きたいけど、


本人は覚えてないし、思い出させるだけで負担になりそう。


Lだ。


Lに聞こう。


風翔に返信する。





「大丈夫だよー!あたし、なんにもされてないし!

逆に友也もカッコよかった!

あとさ、どうしても聞きたい事があるから、

Lの連絡先くれないかな!?」




明るく振舞った。


意外にもすぐ既読。


もしかして今から部活の朝練なのかな?




しばらくして、Lの連絡先が送られてきた。


あたしは風翔に礼も言わず


すぐにLに連絡した。


Lも、返信は早かった。


それから一時間ちょっと、Lが登校するまで、


あたしは彼の壮絶な過去を知る事になった……。





母親からの虐待


育児放棄


母親の浮気


両親の毎日の喧嘩


両親の別居


親友の自殺


軽い鬱


不登校





簡単に言うと、これが風翔の歴史。


友達には言っていない。


授業参観の日も、運動会や展覧会の日も


「風翔のお母さん来ないの?」と聞かれても


「お母さんは仕事で忙しくて」と、答えていた。


出て行ったお母さんは家にいることになっていて


仕事で忙しいから学校の行事には来ないと。


姉の由美も友達の家に泊まりに行ったりしてて、


風翔は、一人で夕飯を作ったり


コンビニでお弁当を買ったりして過ごしている。





幸い、父親とは良好な親子関係を築いているらしい。


だけど父親の仕事はとんでもなく忙しく、


休みでも急に呼び出されたりする事が多く、


ほとんど家にいないそう。


帰ってくるのも日付が変わった頃。





友達は、ボクシングジムで出会った。


風翔が9歳の時だった。


その友達は他校の同い年。


クラスメイトからいじめられてると風翔に良く、相談していた。


風翔は「そんな奴殴っちゃえよ!」と


明るく、軽く、アドバイスしてたらしい。


その子はある日、団地から投身自殺。


遺書も何もなく、学校もイジメは否定。


警察も事故として片付けた。


風翔だけは知っていた。


事故ではない、自殺だと。


その日から風翔は壊れ始めた。


イジメを隠す学校に対しての憎しみ。


イジメに対する憎悪。





この事件を知る、とある大人が、のちに


風翔をリベルテという「いじめ撲滅組織」に推薦したのだった。


その推薦者は、Lにもわからない。


見たことも会ったこともない


「上の人」だと。





風翔のもう一人の9歳の人格、ともやくん。


まさにこの年齢の時に、この事件は起こっていたのだ。


友達が、自殺した。


たったの9歳の子が


自殺するまでにイジメで苦しんだ。


9歳なんていったら、まだ「イジメ」を「イジメ」とわからない年齢だろうに。


どんなひどい仕打ちを受けていたのだろう……。





別人格 9歳のともやくんは、


悲しくなったり、感動したり、誰かに甘えたくなると現れるらしい。


たとえば、誰かから優しくされたり


悲しい曲を聴いたり、


テレビで流れる子守唄を聞いた時だったり……。


でも最近は、イジメ解決でそれよりも辛い目にあってばかりいるから、


9歳のともやくんより、あたしが会った


怖い友也のほうが多く出てくるらしい。





リベルテの広報委員となった風愛友の仕事は、


簡単に言うと


イジメはだめだよ、


こういう組織が見張っているよ、


だからイジメなんてしちゃだめだよ、


という宣伝を、上からの命令で始めた。





徐々に有名になってくる彼には、


全国のリベルテを恨む人間、要するにイジメをリベルテに止められた人から、


毎日のように「殺す」「潰す」「正体を暴いてやる」とLINEが来るようになった。


それもイジメをしてきた子供たちだけではない。


驚くことに、イジメをしている子の親たち

からもだった。


彼のストレスは限界を達し、


今はもう一人の凶暴な「友也」が、


頻繁にあらわれるようになったそう。


そこへあたしが現れて、


さらに風翔を混乱させちゃったんだろう……。





あたしは...あたしは...


守りたい。


なにがなんでも。


ご飯作れるよ。愛情たっぷりのご飯。


一人が寂しかったら、いつでも飛んでくよ、家近いし。


キスとかが嫌なら、それも我慢する。


ちょっと自信ないけど。


だから、お願い。


そばにいさせて。


守らせて……。

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