第142話 消えた基本人格


風を助けて。


本物の風が、消えた


もう、戻ってこない。


長い眠りにつくと、風は言った。


今の風は無名。


名前がない。


親なんだから、お父さんに名前をつけてもらおうとしていたけれど


本来の風がいなくなって、お父さんは泣き崩れて、それどころではない。


今の風は、


いじめ撲滅組織風愛友。


だけど


あの優しさが、ない。


冷酷無比の、いじめ撲滅ロボット。


人間じゃない、心がない。


いじめを撲滅する事しか頭に無い。


俺の生きる目的は、いじめを解決することだけだって


風愛友を辞めたら自分の存在意義はなくなると


そして


本当の風は、消えた。


あなたにはもう


二度と会えないの?


風愛友を、助けて。


戻ってきて。


神様、お願いだから


なんでも言うこと聞くから


本物の風を返してください。


お願いします。










3月15日


風が失恋した翌日。


あたしがいくらLINEしても返事はなかった。


タイムラインは、10個以上投稿されていた。


どれもこれも


「仮メンバー募集中!」

「みんなでイジメを撲滅しよう!」

「仮メンバー募集要項」


とにかく、仮メンバーをかき集めようとしていた。


このタイムラインに、LもDAIもHALも驚いていた。


だって仮メンバーとはいえ、上の厳正な審査を必要とする。


簡単に集められるものではない。


それに上からは、仮メンバーはもう要らないと言われている。


こちらからメッセージをいくつも送っても一向に返事がないから


あたしが風の家に行くとすぐに


HAL、友愛、あと知らない男の人二人、自然と、風の家に集合していた。


そして意外にも、普通にドアは開けてくれた。




あたし「風!?何あのタイムライン!」


風「風翔はいないです」


あたし「は?何言って…」


HAL「君の名前は?」


風「イジメ撲滅組織リベルテ所属、初代風愛友です」


友愛「いえ。貴方は引退して今は私が二代目風愛友をやってますよ?」


風愛友「俺は初代で、現役です。二代目のあなたは初代の言う通りにして下さい。俺の方が階級は上なので」


友愛「……」


あたし「なんで…頑張って辞めさせたのに…風翔は?今眠ってるの?」


風愛友「風翔に頼まれたから、仕方なく俺がやるんだよ。特に俺は出てきたいとは願ってなかった。

ピンチヒッターみたいなものでさ。奥のずっと奥で隠れていたのに、突然呼び出されて驚いてるんだよね」


あたし「な、名前は?」


風愛友「ないよ。せっかくだから本当のお父さんに名前を付けてもらいたいから名付けてって昨日言ったんだけどね。

俺に名前を付けたら二度と風翔が戻ってこない気がするから付けたくないってさ。おかげで今日は朝から医者が家に来て、大変だった」


HAL「なぜ、風翔は消えたいと?」


風愛友「疲れたんだって。もう傷つきたくないんだよ。俺は恋愛とか興味無いから、俺が選ばれたの。

ナツキやユウト、未来は恋愛人格だから無理。サトシも友也も日常生活を送るには難しい子だから」


あたし「お、お願い…風翔を説得して?」


風愛友「無理。俺はアイツとは話せない。それに本人が消えたがってるから話し合いに応じない。

アイツは傷つきやすいから、いじめ解決にはもともと向いてなかったんでしょ」


HAL「向いてましたよ。風愛友のいじめ解決数は全国一位ですから」





あたしは、HAL、護、レイジ、友愛と共に


別人格の風愛友と話していた。


名無しの風愛友。


一見、確かに風愛友だった。


会話もちゃんと成立する。


理論的だし、冷静だった。


だけど、違う。


いつもの温かい心が、見えない。


これは、完全に違う人間だった。


話してみると、意外と話が通じて冷静で


完全なる「組織の人間」だった。




風愛友「俺なら、余裕でやっていける。ストレスなんか感じないし、恋愛もしない。

なんのトラブルも起こさず、いじめ解決に専念できる。勉強とかは自信ないけど」




確かにこの子なら、もう傷つかないのかもしれない。


この子なら、傷つかずに幸せに暮らして行けるのかもしれない。


だけど……


だめ。


別人格は、だめ。


どうすれば風翔は生きようと思ってくれるの……?


お医者さんが朝から来たと言っていた。


医者でも説得出来なかったのに


あたしたちに、何ができる……?

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