第11話
【葵視点】
明日から夏休みということもあり。
クラスの空気は、浮ついていた。
そこら辺を敏感に感じ取った教師は、「夏休みだからと言って、はしゃぎ過ぎないように!」なんて言ってたしなめてくれていたが……
果たして、それを真面目に受け取るのは何人ほどいるのだろうか?
もちろん私と桜は、ここぞとばかりに計画を進めるつもりだ。
そんなことを考えながら小言混じりの教師の声をスルーして帰りの時間をワクワクしながら待っていた。
窓の外は飛行機雲すらない青い空。
まるで、『陰らせられるものなら陰らせてみろ!』と挑発されているような熱い日差し。
果たして、今年の夏と私達の恋心とどちらが熱いのだろうか?
ようやく訪れた帰りの時間と共に私は、「ん~」と伸びをしてから美代にむけて「なにかあったら連絡ちょうだい」と言って立ち上がる。
「うん。ありがと。でも蜜月邪魔するほど無粋な事はしないつもりだから」
「えへへ。ありがと」
そう言って、手を振ってから教室を出ると……?
なぜか、しゅうくんが申し訳なさそうな顔をして待っていた。
「どうしたの?」
と、聞きながらも腕に絡みついて胸を押し付ける。
「その、桜が告白してくれたのも嬉しいし。こうして恋人同士になれたことも嬉しい。でも、やっぱり、ぼく葵のことも好きなんだ……」
う、嬉しすぎて、思わず素で応えてしまいそうになっちゃった。
なにせ、今は桜に化けているだけであり。
中身は、葵その者なのだから!
「はいはい。そんなこと言われなくっても分かってるって」
そう言いながら、桜の居るC組に向けて歩みを進める。
内心では、本当に嬉しすぎて顔が緩まないか心配である。
気合のポーカーフェイスで乗り切るしかない!
まったく、どうしてしゅうくんはこんなにも可愛いのだろう。
C組から出てきた桜がしゅうくんのうでに抱き着く。
「えへへ。おまたせ~」
「うん。あのさ、葵?」
「なぁに?」
「ぼ、ぼく、やっぱり、葵の事も桜と同じくらい好きだから」
「あ、ありがと……」
桜が照れている、実に見事な演技といえよう。
ただ、さっきもそうだったけど。
今も、場所が悪い。
周りに人が居る状況でありながら堂々と二股宣言したようなものなのだから。
なにせ、私達は嫌でも目立つ名物的存在なわけであり。
聞き耳立てている人も多い。
余計な人が割って入って来る前に立ち去らなければならない!
「ほらほら、葵も呆けてないで帰るよ!」
「う、うん……」
ややうつむき加減ながらもしっかりと歩みを進めてくれた、しゅうくんと桜。
どうやら何事も無く帰宅できそうでなによりだ。
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