第2話

【秀一視点】



 ぼくは、幼いころ二人の女の子と約束をした。


 大きくなったら二人をお嫁さんにすると――


 でも、それが犯罪行為になるのだと知って悩んでいた。


 はっきり言って、ぼくは桜も葵も同じくらい大好きだったからだ。


 違いがあるとすれば、ツーサイドアップにした髪を結わえるリボンの色だけ。


 桜が桃色で、葵が青色。


 厳密に言えば、見分ける手段はあるんだろうけど……


 声も同じなら性格も好みも同じ。


 テストの点数まで全て同じなのだから驚きだ!


 教えてもらった、というか。


 聞いてもいないのに聞かされた内容を信じれば、身長や体重はもちろんのこと、スリーサイズまで同じらしい。


 もしもテレビアニメだったら一人で二役を演じる事になるのだろう。


 そのくらい、二人とも同じなのだ。


 つややかな黒髪は肩にかかるくらいで切りそろえられていて。


 栗色の瞳。


 美人と言うよりは、可愛いという言葉が似あう二人。


 どちらかを選べと言う方が無理な話だ!


 そんな難題が今日――


 桜の告白により解決されてしまった。


 ぼくは、桜と付き合うと決めた!


 でも、正直なところ葵に対する罪悪感も大きい。


 だって、今でも葵の事が大好きだからだ!


 なんか好きな人が居るのに別の人と付き合うみたいな感覚があって……


 桜とキスしてる時だって、頭の中では葵に対する『ごめんなさい』がなかったと言ったらウソになる。


 今だって、本当に桜を選んでしまって良かったのか悪かったのか悩んでいるくらいだ。


 でも、もう後戻りはできない。


 ぼくは、桜と付き合うことに決めたのだから!


 だからこそ、報告しなければならない人達が居る。


 ぼくの両親だ。


 幼いころ、『ふたりともおよめさんにしたい』と言ったら子供の言うたわごとだと笑われたことは今でも根に持っている。


 あの頃から、正直に話してくれていればこんなにも悩まなくて良かったと思っているからだ。


 なにせ面白半分で『あらあら嬉しいわ。よろしくね桜ちゃん葵ちゃん』なんて言って喜んでいた母親。


 父親だって『いや~。お嫁さんを二人ももらえるなんて羨ましいかぎりだ』とか言っていた。


 元々家が隣どうしで幼いころから行き来のあった我が青木家と立花家。


 その立花夫妻までもが、ぼくたちの将来を喜んでいたのだから始末が悪い。


 だからこそ重婚が犯罪だと知った時の絶望感と言ったらなかった。


 なにせ、ぼくは本当に二人をお嫁さんにするつもりで生きてきたからだ。


 でも、それは終わり。


 ぼくは、桜と結婚するつもりで付き合うのだから。


 だから、夕食の席で言ってやった。


「あのさ、ぼく桜と付き合う事になったから」


「え?」


「そ、それは、本当なのか?」


 唐突なぼくの告白に母親も父親も驚いている。


「こんなことでウソついてもしかたがないよね?」


「そりゃそうかもしれんが……」


 父親は、思っていた以上に複雑な心境みたいだ。


 なにかに対して、もうしわけなさそうな顔をしている。


 母親も、同じような顔をしていて。


「その、葵ちゃんの事はいいの?」


 なんて、言ってくる始末だ。


「いいも悪いも重婚は犯罪なんだから、どっちか選ぶしかないでしょ?」


 両親は目を合わせてうなずきあう。


「わかった。お前達が決めた事なら父さん達は口を挟まない。好きにしなさい」


「そっか、桜ちゃんが私達の娘になるのね」


「まぁ、順調に行ったらの話だけどね」


 その後は――


 会話らしい会話もなく食事を終えた。


 理由は分かっている、葵に対する罪悪感だ。

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