第9話

【葵視点】



 隣の教室から大きなざわめきが起こり。


 それが、私の耳にも届いた。


 どうやら、予定通りに事が運んでいると言うことなのだろう。


 今日の報告が少し楽しみだったりもする。


「ねぇ桜ちゃん? 何があったのかな?」


 近くの席に座っている、美代みよが話しかけてきた。


 長めの髪を後ろで二つに束ね。


 眼鏡をしてるのが特徴と言えば特徴な女の子。


 一言でいうと、どこにでも居そうな地味な女の子である。


 桜とは、比較的近しい間柄であり。


 たまにだが、一緒に勉強をしたりしている。


 だからこそ、ここは予定通りに――私も爆弾を投下する事にした。


「実はね、昨日しゅうくんに告って恋人同士になったんだ」


「へ……」


 美代は固まってしまった。


 ざわめく教室。


 美代の代わりに、近くに居たギャルっぽい恰好をした香奈美かなみがツッコミを入れてきた。


「え! なにそれ! マジな話!?」


 校則が比較的緩めなのもあり、金髪にしてソバージュをかけた髪と濃い目のメイクが特徴。


 ふだん桜とは、あまり絡んでこないタイプの人間である。


「こんな事でウソついてもしかたがないでしょう?」


「や! そりゃ、そうかもしれんけどさぁ。夏休み開けたらって感じなら分からなくもないけど……まさか、夏休み直前で恋人宣言されるとは思わなかったわ」


「そうかしら? むしろ、恋人として過ごす夏休みの方が楽しくていいと思うのだけれど?」


「あ~。まぁ、言われてみればそうかもしれんが……それにしてもいきなりだな?」


「そう? むしろ、10年以上続いた関係がようやく進展した結果だと思うと実に長く感じるのだけれど」


「あ~。そういや~。そんな話も聞いてたっけな~」


 香奈実は、遠い目をしながら髪をかく。


 私達が、入学してきたばかりの頃でも思い出しているのだろう。


 幼稚園の頃は、そうでもなかったが。


 小学生、中学生となり。


 年を重ねる度に強くなる好奇な視線。


 それらにさらされてきた私達からしたら本当に長い時間だったのだから。

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