第10話
【秀一視点】
隣の教室のざわめきが聞こえてきた。
おそらく桜が何か言ったのであろう。
正直なところ恥ずかしくもあるが……
いつまでも隠し通せる話でもないだろう。
そんなことを思っていると、同じクラスに居るもう一人の、しゅうくん。
「なぁ? 秀一? 隣、何かあったんかな?」
前々から、『桜か葵のどちらかをよこせ』と、ぼくにつめ寄って来るから少し苦手なタイプだけれど。
それ以外の点においては、中学時代からの知り合いってこともあり仲良くしてはいる。
だから、素直に告白することにした。
「実は、桜と付き合うことにしたんだ」
「おっしゃー! ついに俺と葵ちゃんの付き合う日が来たってわけか!」
「や! 桜と付き合う事にはなったけど、葵の事が嫌いになったってわけじゃないから!」
「はぁ! お前、まさかこの後に及んで両手に花を続ける気ってことじゃねぇよな!?」
言われてみて、いまさら気付く。
今日も違和感なく登校できたのは二人がそばに居てくれたからだと。
そして、葵を誰にも取られたくない事を――
「ごめん。蹴斗……お前に、葵をやるわけにはいかない」
「はぁ~? いいじゃん、けちくせぇこと言うなって! 同じしゅうくんの仲じゃねぇかよぉ」
どう考えても蹴斗と葵が並んで歩いているところなんてみたくなかった。
昨日の今日で心の整理がついていないからなのかもしれないけど……
葵が、ぼく以外の誰かと付き合うのなんて考えたくもなかった。
「そもそも論で、葵が蹴斗を選ぶとは思えないし」
「よし! だったら、葵ちゃんが俺を選んでくれたらお前は口挟むなよな!?」
「く……」
悔しいけれど、なにも言い返せなかった。
茶髪にピアスといういかにもチャラチャラしてそうな男のくせにド正論でくるとは思わなかった。
それでも何か言わなきゃ負けた気がして――
「悪いけど! あ、葵が好きなのは、これからも、ぼくだけだから!」
むちゃくちゃな事を口走っていた。
ぼくと桜が付き合う事になったのは、桜と葵が話し合って決めたことだと言うのに……
葵が、どこの誰とも知らない人に取られちゃうくらいなら。
ぼくが葵を――
葵の気持ちを無視してでも、ぼくのモノにしたくなっていた。
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