第8話
【桜視点】
私達が通う学園までは徒歩で15分ほどのところにある。
それまでの間――
私と葵は、しゅうくんを両サイドから挟み込むように腕を絡めている。
桜が右側で、葵が左側と決まっているので。
葵を演じる今日の私は、しゅうくんの左腕に胸を押し付けるようにして歩んでいる。
もちろん葵も、しゅうくんの腕に胸を押し付けている。
毎度の事ながら、少し困った顔をしているしゅうくんが可愛い。
そして、それは、学園が近づいても変わらないので当然注目を集める結果となる。
今でこそ、『あのやろう、羨ましいなぁ』という視線も減ったが。
私達の中学時代を知らない人からしたら、さぞ物珍しかったのだろう。
この学園に通うようになったばかりの頃は、かなり好奇な目で見られたものだ。
そりゃ、そうだろう。
全く知らない人から見たら同じ顔した女の子が一人の男の子をサンドして歩んでいるのだから。
中には、思わず足を止めて見入っている人までいたくらいである。
でも、今日からは一味かわる。
だって、私達の関係は――
仲の良い幼なじみから、恋人へと変わったのだから。
三人そろって別のクラスである私達は、それぞれのクラスへと向かう。
しゅうくんがA組で葵がB組。
私は、C組へと足を向ける。
もしも、ばれたら確実に怒られるであろう。
そっくりな双子なのを良いことにしてB組とC組を行ったり来たりしているのだから。
そして、私が「おはよう」と声をかければ――
私を葵だと勘違いした女の子の友達たちが、「おはよう」と声を次々に返してくれる。
その中の一人。
長い髪をポニーテールにした
「いやぁ~。夏真っ盛りだと言うのに、今日もお暑いですなぁ」
「そうでもないわよ。しゅうくんと恋人になったのは桜の方だから」
私の、爆弾発言に教室がざわつきはじめる。
直撃を受けた、智実が復活する前に――
いかにもスポーツやってますって顔した短髪。
「ちょ! どういうことよそれ!?」
「どうも、こうもないわよ。桜が告って、しゅうくんと恋人同士なったってだけの話だから」
「や! あんたは、それでいいわけ!?」
「良いも悪いも、私達の関係が変わっている様に見えた?」
「いや、見えなかったけどさ! 今日も、ラブラブした空気満載だったし!」
「でしょ。あくまでも桜が恋人になったってだけで、仲良しさんをやめたわけじゃないんだから」
バシンっと大きな音を立てて私の机を叩く智実。
どうやら復活したらしい。
とても面白い顔をしている。
「ほ、本当に、葵は、それでいいわけ!?」
「良いも悪いも、桜と話し合って決めたことだから」
「じゃぁ、なに! あんたは自分の好きな人を譲ったってこと!?」
「そう思ったなら、それでもいいわ」
「いいわけないじゃない!」
バシンと、またしても私の机を叩く智実。
「正直これでも、あんたのこと応援してたつもりなんだから! いくらなんでもあっさりし過ぎじゃない!」
「そうよ! なに他人事みたいなこと言ってるのよ!?」
美智代も智実と同じで納得してくれないみたいだ。
少なからずこうなる事は予想していたが……
二人の顔と、教室の雰囲気から察すると確実に予想以上だったみたいだ。
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