第6話
【桜視点】
葵が、しゅうくんの部屋に向かう一方で私はリビングに向かい。
いつも葵が座る定位置に腰を下ろす。
予想通り、青木家の方は私に対して申し訳なさそうな表情を浮かべていた。
会話なんて弾まない重々しい空気が流れる中――
口火を切ったのは薫さん。
「その、なんて言ったらいいのか……その、ごめんなさいね」
「いえ。桜とは話し合って決めた事なので同情とかはしなくてもだいじょうぶです」
「その、本当に良かったのかい?」
「何度でも申し上げますが、桜と話し合って決めた事ですので」
「そうか……」
「まぁ、葵ちゃんがそれで良いって言うのなら……でもね、葵ちゃん。例え恋人でなかったとしても、これからも遊びに来て良いんだからね」
「はい。もちろん、そのつもりですので、どうかこれからもよろしくお願いします」
深々と頭を下げる。
「あ、いや、こちらこそよろしくたのむよ」
「本当に、良い娘に育ってくれたわね」
薫さんは、うっすらと目に涙を浮かべていた。
仮に私達の立場が逆だったら葵がここで同じことを言われていたのだろう。
そう考えると実に笑える。
でも、バカにしたりとかはしない。
だって二人は、将来的にお父さん、お母さんと呼ぶようになる予定なのだから。
それに私達は良い子ではない。
どちらかと言えば、悪女の類になる。
善良なる優しい家庭を土足で踏み荒らそうとしているのだから。
しばらくして、葵が下りて来ると――またしても空気が重くなった。
そりゃ、そうだよね。
本当の事を知らない人達からしたら、幸せを手にした女の子と出来なかった女の子が同時に存在しているようにしか見えないのだから。
でも、そんなことは全く関係ありませんって感じで私は口を開く。
「桜? しゅうくんどんな感じだった?」
「ん~。端的に言うなら若さを持て余してるって感じだったかな」
これには、さすがにツッコミづらいのだろう。
将来の義父も義母も何も言えないでいた。
さっきまでとは違う意味で、とてももうしわけなさそうな顔をしている。
どうやらしゅうくんは一人エッチをしているみたいだ。
言ってくれればいつでも相手してあげたのに!
まぁ、そんな奥手なところも好きなんだからいいけどね。
薫さんは、お茶を出し忘れていたことに気付き台所へと向かい。
武司さんは、仕事に行く準備をするために席を外した。
それから10分くらいして私のスマホがメッセージを受け取る音を奏でる。
もちろん持っているのは葵。
私達は、この日のために何度となく互いの立場を入れ替えて生きてきたのだ。
つまり、私と葵の間には隠し事もなければプライベートな事もない。
双方の友達とも上手く打ち解けてそれなりに楽しくやっているのだ。
だからこそ、ニヤリと笑みを浮かべた葵が見せてくれたスマホの画面を見て直ぐに察した。
今の葵の状況を。
そして、それが、しゅうくんを大いに喜ばせたのだと言う事も。
「じゃぁ、私。しゅうくんのところに行ってくるから」
そう言って、葵が立ち上がる。
「うん。よろしくね、桜」
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