第19話
【桜視点】
普段なら食事を終えて、一休みしている頃合いだろう。
そんな時間に私達は、青木家のチャイムを押した。
いつものように薫さんが対応してくれて――
やや、驚いた感じはあったが、こころよく迎え入れてくれた。
そして、リビングに入って早々に私達は、深々と頭を下げた。
「おじさん、おばさんごめんなさい。私達どうしてもしゅうくんのお嫁さんになりたいんです」
ソファーでコーヒーを味わいながらくつろいでいた武司さんは、困った顔になり。
薫さんも、困った顔をしている。
しゅうくんは、いなかった。
たぶん自分の部屋にいるのだろう。
ある意味、話が早くて助かる。
武司さんは、とても優しい顔で諭すように話し始める。
「二人の気持ちは本当に嬉しい。出来る事なら叶えてあげたいくらいだ。でも知っての通り重婚は犯罪なんだ。だから二人には悪いけれど、どちらか一人としか結婚はできないんだよ」
まぁ、そうくるよね。
でも、これは、葵のシナリオ通り。
「その点なら、大丈夫です。先ず私が結婚して離婚してから葵がしゅうくんと結婚すれば重婚にはなりませんから。だからお願いします。私達を青木家の娘にしてください!」
「お願いします!」
私と一緒に葵も、深々と頭を下げる。
正直に言って受け入れがたい話だろう。
なにせ、世間体というものがある。
そういった悪い面を押し付ける形になるのだから。
「桜ちゃん。葵ちゃん。分かっているとは思うけれど結婚だの離婚だのと簡単に出来るものじゃないんだよ」
「そうよ、桜ちゃん。葵ちゃん。武司さんの言う通り少し冷静になって話し合いましょう?」
「私達のお腹にしゅうくんの子供がいるって聞いても冷静に話ができますか?」
私の、爆弾発言に、薫さんも、武司さんも驚いた顔して固まっている。
「ずっとだましていてごめんなさい。実は私と葵。毎日入れ替わっていたんです」
「そんな……それじゃあ……」
ようやく、事の顛末を察してくれたらしい薫さんがなんとか言葉をひねり出している。
「はい。私としゅうくんが恋人になったと言うのも半分は嘘。実際は、葵としゅうくんも付き合っていたことになるんですから」
「どうして、二人ともそんな事をしたんだい?」
思った以上に武司さんは冷静に話を進めようとしてくれているみたいだ。
「さっきも言った通り。私達を青木家の娘にしてほしいからです」
「その覚悟を見せるために妊娠して見せたと言う話なのかい?」
「はい。その通りです」
「は~。まさか、こんなことになるとは……」
武司さんは、頭を抱えた。
薫さんは、どうしたらいいか分からずオロオロしている。
「私達の両親は、黙らせてきました。後は、おじさんと、おばさんに受け入れてもらうだけなんです」
「どうか、お願いします。私達にお父さん。お母さんと呼ばせてください」
「まさか、こんな日が来るとは夢にも思わなかったよ……」
武司さんは、困った顔をしているが、嫌がっているようには見えない。
今日まで友好的な関係を築き上げてきたことが幸いしているのだろう。
ならば、押し通るしかない!
葵の顔を確認すると、こくりと頷く。
そして、二人同時に土下座した。
「「お願いします! 私達を受け入れて下さい!」」
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