第31話
残り3週間、2週間……1週間と、ギルバード邸で過ごせる時間は着実に減ってゆき――
「エミリア――そろそろ皆に伝えても良い頃合いではありませんか?」
クライン様の言う通りだ。許された時間は既に5日を切っている。
ここで暮らし始めて約半年。たった半年ではあったが、とても濃い半年だった。
いつか私が一生を終える時、その時に流れる走馬灯の中で一際色鮮やかに流れるのはきっと、このギルバード邸での半年間の思い出だろうと思う。
それほどに私はこの場所が好きで、ここを離れたくない。だからこそ、『変わらない日常』として最後の最後までここでの暮らしを味わっていたいと思う。
でも、それは許されない事であって、やってはいけない事。
この半年間、私は他のメイド仲間達と仲良くなれたと、少なくとも私はそう思っている。そして、きっと、絆もそこにあると。
言うまでもなく、そんな彼女達に対して最後の最後まで、私の身の上を伏せておく事はあり得ない事だ。
新参者の私を優しく迎えてくれた彼女達へ失礼にあたる事は決してしてはならない。
「……そうですね。 私もそろそろ話さないと、とは思っていたんです。でも、みんなの顔を見るとどうしても言い出せなくて……」
「そうでしたか……」
クライン様はふと、一瞬だけ思案気に視線を上へ向けると、すぐにまた戻し、真剣な眼差しで私を見つめ、さらに口を開く。
「時にエミリア――」
「――は、はい!?」
そのクライン様のただならぬ雰囲気に気圧された私は思わず変な声で応え、
「貴女はリデイン子爵卿の事をどう思っているのですか?」
「――――」
そして、次に出てきたクライン様のその言葉にどう返しそうかと頭を悩ませ、俯き、自然と無言の反応を私は示していた。
「――では、旦那様の事は?」
「――!?」
俯く私に掛けられた次なる問い掛け。思い掛けない唐突な追加質問に私は咄嗟に顔を上げて、そしてクライン様と視線が合った。
すると、私の顔を見るなり頬を緩めたクライン様は何かを悟ったかのように、こう零した。
「……なるほど。やはり、貴女もそうでしたか……」
「?」
しかしその意図はまったく分からず、私は疑問符を浮かべたまま、クライン様を見つめるも、
「しかし、困ったものです。と、言うより、神は本当に意地悪です」
「あの、クライン様、一体何を言って――」
それでもやっぱりその意図は掴めない。私の問い掛けにも応える素振りは無い。
「この世で唯一、すれ違う双方の本心を知り得たにも関わらず、私は立場上、御二方の心の邂逅を手伝うわけにはいかない。しかし、本音では応援しとうございますし、何より貴女をリデイン家へ差し出したくない」
「???」
私の頭は疑問符だらけ。とにかくクライン様の次なる言葉を待つ。
クライン様は思案気に目を逸らし、黙考を経て再び視線を私へ合わせた。
「――ひとつ、貴女にヒントを差し上げましょう」
「ヒント??」
「はい。貴女のここを離れたくないという気持ちを旦那様にぶつけてみて下さい。そうすれば旦那が助けてくださるやもしれません」
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