第10話 衝撃の事実
土日ですっかり詩織さんの存在に慣れてしまった僕。昨日の夜は詩織さんに押し負けて、二人でベッドに入る……なんとか自制して神様に手を出さずに朝を迎えることができた! 案外寝れるもんだね。
「聖也はまた今日から会社か、つまらんのう」
「鍵はスペアを置いていきますので、出かけるなら戸締まりだけはお願いしますね! あと、お金はこれを」
取り敢えず財布に入っていた一万五千円を渡しておく。自分は殆どスマホ決済やクレジットカード決済だし、財布の中の札がなくなっちゃったけど、まあ大丈夫かな。昼休みにでも下ろしにいくとしよう。家の周りは昨日の牛丼屋を始めファミレスもあるし、コンビニも何件かあるので昼食は問題ないかな。
詩織さんに見送ってもらって部屋を出る。なんか新鮮だなあ。新婚夫婦みたい……そんなことを考えてちょっとドキドキしてみたり。いやいや、何考えてるんだ! それはあまりにも神様に対して失礼だぞ! なんとか落ち着きを取り戻して、電車の中では小説のネタ探し。書く方法などが分かっても、いざ書こうと思うとストーリーが浮かんでこないもんだな。ファンタジーものにしようか、それとも現代ドラマ? 恋愛ジャンルってどんなこと書けばいいんだろう……分からないことだらけだ。
仕方ないのでカクヨムコン8の中間選考を通過した作品のリストを眺め、気になった作品を読んでみることにした。とは言え千二百作品もあるわけで……タイトルとキャッチコピーを見ていくだけで会社の最寄り駅に着いてしまった。この作業だけでもなかなか大変だ。
『歩きスマホは厳禁!』と会社で言われているのでスマホは一旦カバンに押し込み、会社が入っているビルに向けて歩く。大きい近代的なビル。このビル全部が自社ビルだとするとかなり大きな会社なんだけど、残念ながら我が社はそのワンフロアにテナントとして入っているだけ。従業員はこの本社で五十名程の企業だけど日本全国に支社があって、業種的には商社かな。
「おはようござまーす」
「ああ、おはよう遠藤くん……!?」
先輩の女性に挨拶すると、きなりギョッとした顔をされた?
「な、何か?」
「あ、いや、なんでもないわよ。ハハハ……」
取り繕う様に笑ってどこかに行ってしまった先輩。何なんだろう? 顔に何か付いてる!? そう思ってトイレに行って鏡を見てみたが、特に問題はなさそうだ。不思議に思いながら自分の課の部屋へ。まだ課の人たちは誰も来てないか。自分の席に着いて今日やる仕事の書類整理などをしていると、ドアが相手誰か入ってきた。
「おはよう」
「あ、おはようございます、課長」
課長の浜田七緒(はまだななお)さんは僕より五歳年上。若くして課長に抜擢された女性で、本当に仕事のできる人。僕は浜田課長に怒られながらも、日々学ばせてもらっている。
「遠藤くん、今日の会議の資料はできてるよね? あとそれと……」
と、こちらを見ずに話していた課長。席に着いて僕の方を見た時、驚いた様な声を上げた。
「な!? あんた!」
「!?」
僕も驚いて課長の方を見ると、先程挨拶した先輩がしていた様な顔。
「ちょっと、大丈夫なの、遠藤くん!?」
「え? 何がですか?」
「……」
意味が分からずきょとんとしている僕と、そんな僕をまじまじと見つめる課長。え? な、なんですか!? 先輩といい、課長といい、僕、何か変ですか!?
「本当になんともないのね?」
「はい……ってか、何なんですか!? 気になるじゃないですか」
「いや、なんともないならいいんだけど……あなた、この週末に何か変わったことなかった?」
「変わったこと、ですか?」
一番の変わったことは詩織さんが現れたことだけど、『部屋に神様が居候してます』なんて言っても信じてもらえないだろうなあ。
「うーん」
「ああ、もう! 仕方ないわね!」
どう説明しようか考えていると、痺れを切らした課長にガシッと手を掴まれそのまま部屋の外へ。その様子に驚いてなのか、それとも僕に『何か』あるからか、廊下にいた人たちや他の課の人たちがザワザワしている。僕はそのまま課長に連れられて会議室に。バタンと扉を閉めると課長は中から鍵を掛けて、僕に座るよう促した。課長は僕の対面に座る。
「遠藤くん、本当に何ともない?」
「だから、大丈夫ですって」
「そっか……まあ、いずれ分かることだから」
暫く考え込んでから、ゆっくりと口を開く課長。
「いい? あなた、取り憑かれてるわ」
「は?」
「いいから聞きなさい。会社に来て、誰かに驚かれたりしなかった?」
「ああ、そう言えば先輩がスゴイ顔してましたけど……」
「そりゃそうよ、今のあなたからは強烈な神の力を感じるもの」
神の力! あー、詩織さんの影響かな。まあ、一緒に寝てるから仕方ないと思うんだけど……ん? どうしてそんなことを課長が?
「なんで課長が『神の力』とか分かるんです?」
「えっと……良く聞いてよ。この会社ね、あなた以外は全員神様なの」
「……えーーーーっ!!」
一瞬課長の言っていることが理解できなかったが、その衝撃の事実にただただ声を上げて驚くしかできなかった。凄いアホ面してるんだろうなあ、今。
「三年前に、実験的に人を採用してみようと言う事になってね。採用されたのがあなたなの」
「そんなこと、今更言われても……」
「私たちは普段会社にいるときは『神の力』を抑えているから大丈夫なんだけど、今の遠藤くんからは取り憑かれていると言うか……もうどっぷり魅入られて普通の人間なら死んでるレベルの『神の力』を感じるのよ」
『神の力』ってそんな恐ろしいものなの!? 課長の話が正しいとすると……詩織さんは全然力をセーブせずに垂れ流しってことなのかな? 普通の人は何か感じるものなのだろうか。
「改めて聞くわよ。週末、何か変わったことはなかった?」
「えっと、実は……」
ここはもう課長の『全員神様』と言う爆弾発言を信じるとして、金曜日に部屋に戻ったら神様が居座っていたことを正直に話す。信じてもらえるだろうか……
「……やっぱり。それ、どんな神だった? 何の神かとか、言ってななかった?」
「文芸の神で、詩織さんと呼んでますけど」
「詩織!?」
慌ててポケットからスマホを取り出し、なにやら確認している課長。あー、例のメッセージアプリのグループでメンバーを確認してるんだ、きっと。
「……」
「あ、あの……課長?」
「今日、仕事が終わったら遠藤くんの家にいくから!」
「えっ!? そ、そんな急に言われましても!?」
「いいから、行くの!」
「は、はい……」
あっさり押し切られてそう言う事に。な、なんかエライことになってきたぞ。神様どうし、喧嘩なんてしないでくださいよ!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます