第29話 二作目と神在月
カクヨムコン9の本番に向けた二作目の設定は順調で、当初『現代ファンタジー』分野で考えていたものの、設定していく内に『恋愛』でも行けそうな気がしてきた。『恋愛』や『ラブコメ』ジャンルは異世界、現代関係なく書けるし、実際に書き終わってから一番しっくりするものに決めればいいかな。
舞台を現代にしたのには別の理由もあって、一作目で書いた『異世界ファンタジー』で設定に苦慮した部分があったから。それは貨幣価値や重さ、長さなどの単位で、金貨や銀貨、銅貨のざっくりした価値を決めて書いたんだけど、イマイチしっくりこなかった。その他単位についてもメートルやグラムが使えるわけじゃないし……これって全部決めないとダメなの!? と言う疑問があったんだけど、結局決められなかったのでぼやかして書いたんだよね。ストーリーからすると重要なことではないのかもしれないけど、気にする読者もいそうだよなあ。
それに比べて現代が舞台ならそんな悩みは不要。貨幣や長さ、重さなど全ての単位をそのまま使えるって、とても偉大なことだと実感している。時々異世界ものでもその辺りをきっちり決めて書いてる作者さんがいるけど、あれは本当に凄いことだと思う。
今回のストーリーでは色々な神様が出てくるので、参考になるかと思って会社の先輩方にそれとなく質問をしてみたんだけど、全く参考にならず。会社にいる先輩方はすっかり人間社会に馴染んでしまっていて、考え方が若干違うもののほぼ人なんだよね。僕の周りにいる、一番神様らしい神様は詩織さんだと実感したけど、その詩織さんですら人っぽいところが多いからなあ。
「物語に出てくる神様って、もっとこう威厳があると言うか、人智を超えた力があって尊敬、畏怖の対象ですよね」
「まあ、人より力はあるがな。物語に出てくる神々は『ナメられては困る』と考えていたのではないか? 大昔はそうして祀り上げられたほうが都合が良かったじゃろうし」
そ、そんなものですか。現代は物質的にも豊かになっているし、人の社会に交じるのに人と違うことをする必要がないとのこと。人の文明を活用して楽しんだ方が得、だそうだ。小説の設定としてはそれではあまりにも人に馴染み過ぎてしまうので、多少脚色することにした。
九月になっていよいよ二作目を書き始める。もちろん一作目後の『活動』は自分のペースで進めていて、簡単なエッセイなども投稿しながら少しずつフォローしてくれる人を増やす。SNSでも相互フォロワーを徐々に増やして、呟けば転送してくれたり、いいねしてくれたりするフォロワーが増えた。一作目を宣伝すると、ポツポツだけど読んでくれる人もいて、劇的ではないけれど効果はありそうかな。
時を同じくして仕事が少し忙しくなったり飲み会があったりで、小説の方は思ったように文字数が伸びなかった。僕の予定では九月中に五万字ぐらい書く予定だったけど、どうやらこのペースだと三万字もいかなさそうだ。進みが遅いのには別の理由があって、それは設定で詰めきれてない部分があったこと。『これでいいか』とか『実際に書く際に決めよう』とか、後回しにしていた部分が、いざ書いてみると変更を余儀なくされたり、そもそも破綻していたり。サラっと流してもいい部分なのかも知れないけれど、神様に関わる部分なのでなんとなく見過ごせないと言うか……
「うーん、書けない」
「なんじゃ、もう煮詰まっておるのか? まだ序盤であろう?」
「そうなんですけど、どうも神様に関する情報が少ないと言うか……いや、文献とかはイッパイあるんですけど、それって詩織さんの言葉を借りるなら『ナメられては困る』、威厳ある神様のお姿なんですよね」
現代の下界で暮らしている神様で、そこまで人っぽくない神様の行動原理というか、そういうのを書きたいんだけど、参考にできる部分もなく……フィクションだから自分で考えて書いちゃえばいいのかもしれないけど。もう詩織さんみたいに、タブレットが使いたいとか、お酒が美味そうとかでいいのかも。
そうこうしている内に九月が終わり十月。巷は神無月であり、出雲だけは神在月。そう言えば神崎様も『神在月』とおっしゃっていたから、ウチの実家の辺りでもそう呼ぶのかもしれない。二度目の旅行は慣れたもので、詩織さんはササッと旅の準備をして出掛けてしまった。
「寂しいじゃろうが、我慢するんじゃぞ」
「何言ってるんですか。ここ、僕の部屋ですからね」
「フォフォフォ、じゃあ行ってくるからの。聖也が寂しがるといかんから、時々メッセージは送ってやるとしよう」
「有り難うございます。気を付けて」
今回も飛行機で行くそうなので時間はそんなにかからないかな? ウチの会社からも社長を始め部長が何名か出張するそうなので、一緒に行くと言っていた。会社の先輩である神様方も出席は自由らしいけど、例年社長と部長さんだけの参加らしい。皆行っちゃったら仕事が回らないもんな。
詩織さんが出掛けた夜、会社から帰ると部屋が妙に静かで、若干の孤独を感じる。あれ? 僕の部屋ってこんなに寂しかったっけ?
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