第15話 設定完了!
詩織さんの助言に従って設定を始め、何だかんだ設定している内に設定自体が楽しくなってくる。なかなか書き始めない僕に、
「あまり設定に凝ると、書き上げるのに苦労するぞ」
と、詩織さん。ハッとして詳しすぎる部分は割愛したり採用を見送ったり……そんなことを繰り返して、四月三週目に入ったところでようやく設定が完了した。そこには書きたかったことが全部詰まっていて、箇条書きなどが多いものの一作書き切った様な満足感。
「ふぅ……」
「なになに? あ、それ遠藤くんの小説ネタ?」
昼休みにスマホでWEBページを表示ながら設定を見直していると、後ろから覗き込んできた課長。
「あ! 見ちゃだめですよ!」
「フフフ、頑張ってるじゃない。設定をちゃんとやれって詩織に言われた?」
「はい。何も考えずに書き始めたら全然書けなくて」
「最初はそうよねー。書き上がったら読ませて欲しいなあ」
「い、イヤですよ、恥ずかしいし。それに課長だって教えてくれなかったじゃないですか」
「ケチ。折角先輩が添削して上げようと思ったに!」
「七緒先輩の作品を読ませてくれたら考えますよ」
わざと『七緒先輩』と言うと、頭を軽く小突かれた。ちょっと照れつつ笑いながら自分の席に戻っていく課長。その日はそれ以上創作に関して会話しなかったけれど、会社帰りに駅に向かって歩いていると後ろから来た人に腕を組まれる。
「えっ!?」
「宴会するわよ、遠藤くん!」
「か、課長! 宴会って……」
他に人……いや、神様が一緒ではないので、宴会とはつまり僕の部屋にくるってことですか!?
「いいですけど、またベッドに潜り込んだりしないでくださいよ!」
「フフフ、善処するわ」
だんだん課長の言動が詩織さんに似てきた気がするなあ。宴会の拒否権はなく、結局いつものスーパーで寿司などを買い込んで帰る。予め詩織さんには連絡してあったらしく、詩織さんは僕たちの到着を待ちわびていた様子だった。
「待っておったぞ!」
「なんで僕の部屋で宴会なんですか? 神様同士なら会社の皆と飲みに言っても一緒でしょう?」
「会社の皆で行ったら仕事の話もしなきゃいけないし、課長として羽目も外せないでしょう?」
僕も会社の人間だし、僕の部屋でも羽目は外さないで欲しいんだけど……どうやら気心の知れた詩織さんと飲むのが楽しいらしく、それは詩織さんも同じ。寿司のトレーはそのままでいいとして、お惣菜などは皿に盛り付けて、あとはお酒用のコップね。二人ともイッパイ飲むからなあ。
「今日は寿司か! そう言えばここに来てから寿司は食べてなかったのう」
「あんた、回転寿司にも行ってないんじゃないの?」
「回る寿司屋のことか!? アレには一度行ってみたいのう」
「じゃあ今度行きましょうか? 近所にもありますよ」
「約束じゃぞ! よし、まずは乾杯じゃな」
神様はお酒を前にするとテンションが上がる様で、二人とも一杯目のビールはあっと言う間に飲み干して二本目の缶ビール……は、速い! 前回の宴会であれだけ二人で話していたはずなのに、今日もよく喋る二人の神様。僕はまた聞き役だったけれど、唐突に僕の小説の話になった。
「あ、そうだ。遠藤くんは小説の設定、終わったんでしょう? そろそろ書き始めるんじゃないの?」
「そうですね。詩織さんのレクチャーのお陰で設定はちゃんとできましたので。書く方のテクニックはまだまだないですけど、それも勉強しながら書いてみます」
「お主は素直で良いのう。出来上がりが楽しみじゃわい」
「えー、詩織さんにも見せないですよ、恥ずかしいし」
「何を恥ずかしがっておる。投稿すれば多くの人に読まれるんじゃから、私が読んでも良かろう?」
「なんか身近な人に読まれるのって恥ずかしいんです! 課長だってそうでしょう?」
「ま、まあそうかな。でも遠藤くんのは読みたいなー。部下がどんな小説を書くか課長として知っておく必要があるのよ!」
そんな必要ありません! しかしまあ詩織さんが言うことにも一理ある。結局不特定多数の人に読まれる訳だから、ここで恥ずかしがっていても仕方ないのかもしれない。
「き、気が向いたら教えます」
「フォフォフォ、まあ聞くまでもなく分かるんじゃがな」
「!? ハ、ハッキングですか!?」
「我々は神じゃぞ。お主のアカウントを特定するなど造作もないわ。と、言うかもう知っておる」
衝撃的なことを言う詩織さん。と、言うことは課長も!? ハッして彼女の方を見るとニヤリと笑っていた。
「それはズルいですよー!」
「まあまあ、いいじゃない。神っていうのはこういう好奇心が強いもんなのよ、諦めなさい。その代わり、初投稿したら記念に私のアカウントも教えてあげるから」
「ホントですか!」
「だから頑張って書きなさいよ。私も詩織も楽しみにしてるからね」
「はい!」
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