第26話 帰宅
結局じいちゃんに詩織さんを紹介できたのは翌日で、『神様です』とは紹介しなかったんだけど何か感じ取っていた様子……流石神主だ。
「聖也よ、あの詩織と言う女性は……」
「OLだよ」
「そ、そうなのか? 何かこう特別な気配がするが……」
「OLだよ」
「お前、彼女と結婚するつもりか?」
「うーん、まだそこまでは考えてないけど、ダメなの?」
「いや、ダメではないぞ。ダメではないんだが……こう、何か心がザワザワすると言うか」
「詩織さんは普通のOLだよ」
と、言いくるめておいた。ゴメンよ、じいちゃん。実家にいる間はじいちゃんも一緒にご飯を食べることが多かったけど、最初こそ詩織さんに対してどこか緊張気味だったじいちゃんも、日を追う毎に慣れて普通に話す様になっていた。母さんは詩織さんのことが気に入った様子で、終始ニコニコしてた。まあ、相手が神様だから結婚することはないだろうけど、仮に結婚しても嫁姑問題は起きそうにないかな。
夏祭りの後は家の車を借りてドライブに行ったり海水浴場に行ったり。詩織さんはしっかり水着まで持ってきていて、準備万端だ。
「神様がビキニ……」
「どうじゃ? 似合っておるだろう?」
「そりゃまあ、詩織さんはスタイルいいですし。でも……なんか畏れ多いなあ」
「何を言うておる。私の裸も見ておるだろう」
「そ、そう言う問題じゃないんです!」
詩織さんはきっと、僕が焦る様子を見て楽しんでいるんだ。
「そう言えば、詩織さんの浴衣姿、会社のファンの方々に大変好評でしたよ」
「おー、そうかそうか。私の浴衣姿など、まず見る機会がないじゃろうからな。水着姿も送ってやると良いぞ」
そう言って写真は撮らされたけど、この写真は送らないことにする……過激すぎます! 先輩方に怒られそうなんだもん。こっちに来てからは一応『恋人同士』と言うことにしてあるし、やってることもまさに恋人同士。もうこれだけで先輩方に怒られそう。
時々神社の仕事も手伝いつつ、あっと言う間に夏休みの一週間程が経過して帰る日に。離れる前に龍神様にご挨拶。
「聖也よ、あちらでも達者でな。また帰ってくるが良いぞ」
「はい。お世話になりました」
「神崎よ、邪魔したな。私もまた来るかもしれんが、その時は宜しく頼む」
「詩織様もお元気で。神在月には来られますのか?」
「そのつもりじゃ。あちらで会うかもしれんのう」
駅まで母さんが車で送ってくれて、そこからはJRの在来線。途中で新幹線に乗換えて、約五時間の旅だ。
「有り難う、母さん。また帰ったら連絡するから」
「お母様、お世話になりました」
「フフフ、詩織さんもまた来てちょうだいね。聖也のこと、宜しく頼みますね」
「はい」
「次は婚約の報告を聞かせてもらえるかしら?」
「ま、まだそれは気が早いから!」
冗談なのかマジなのか良く分からない母さんの発言に、詩織さんはニコニコしているだけだった。そう言えばウチの会社は神様ばかりだけど、誰も結婚はしてないのだろうか? 皆が神様と知らない時は既婚者の人もいるのでは? と思っていたけど。今度課長に聞いてみよう。
詩織さんは車窓から見える景色に終始興味津々で、新幹線のスピードにも驚いていた。
「こんなに速く走るのか!?」
「スピードで言えば飛行機の方が速いですけどね。まあ、景色を上から見るのと横から見るのとでは全然違いますけど」
「昔の人々は遠くに行くのに随分苦労しておったが、便利になったものよ。皆こぞって海外にも行くわけじゃな」
お昼は途中で買った駅弁、とビール。今日は富士山もキレイに見えていて、それでまた詩織さんのテンションが上がる。帰りは電車にして正解でしたね。部屋に帰り着いたのは夕方で、もう夕飯を作る気力もなかったので外食。帰ってきてシャワーを浴びてから飲んだ冷えた缶ビールがめっちゃ美味しかった。
「夏休み、しっかり遊んじゃいましたねー。小説の設定を考えようと思って何もしなかったや」
「時には書くことから離れるのも重要じゃぞ。リフレッシュすれば、何か閃くかもしれんからな」
「そうですね。休みはまだ一日残っているので、明日考えることにします。詩織さんは? 楽しんでもらえましたか?」
「大満足じゃ。お主の部屋に来て良かったと改めて思っておるぞ」
「それは良かったです」
「聖也の母親は結婚を待ち望んでおる様じゃったな」
「アハハ、詩織さんみたいな美人を連れて帰ったら期待しちゃうでしょう、普通」
「……」
何を思ったか、ソファーに座っていた僕の膝の上に、こちら向きで跨ってきた詩織さん。首に手を回してくる……か、顔が近いですって!
「し、詩織さん!?」
「フフフ、結婚はできんこともないぞ。まあ、色々調整は必要じゃがな」
「そ、そうなんですか!? いや、でも神様と結婚ってそんな畏れ多い」
「やることはやっておるのじゃ。大差あるまい?」
「またそういう下ネタを……」
と、そこまで言った所で詩織さんの唇に口を塞がれてしまった。何だかんだ詩織さんのペースに流されちゃってるよな……と理解はしつつ、そのまましばらくイチャイチャして、ベッドに移動した。
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