第3話 アドレス交換
夕飯はカレーが食べたいと言う詩織さんのリクエストに応えるべく、一緒にスーパーで材料などを買い物。部屋に帰り着いたのは夕方で、僕がカレーの準備をしている間に詩織さんは楽しげに早速タブレットを弄り始めていた。最近の神様は、ガジェットに慣れるのが早い様子。
「これでメッセージもやり取りできるの! どれ、聖也ともアドレスを交換するじゃ」
「あー、ちょっと待ってくださいね」
調理を一旦止めてスマホを取り出し、詩織さんとアドレス交換。詩織さん、いつの間にかジャージ姿に戻ってる……アカウントも『詩織』なんですね。
「おー、お主が初フレンドじゃな!」
「僕以外に登録できる人がいるんですか?」
「何を言っておる。下界にどれほど神々が降りてきているか知らんのか? 見ておれよ」
何やらタブレットを持って念じると、ピコン!と音がしてホーム画面にグループが追加される。そのグループ名はシンプルに『神々』……神々!? 参加人数……いや神数が千を超えて凄いことになってるんですが。
「おー、登録されたぞ! これで色々と連絡が取れる」
そこから楽しそうにメッセージのやり取りを始めた詩織さん。ピロンピロンと頻繁に着信音が鳴っているから、知り合いの神々から沢山メッセージが来てるんだろうな。皆さん、どれだけ下界でネットやってるんですか!?
再びカレー作りを始めて、後は待つだけになったところでリビングに戻ると、詩織さんはまだメッセージのやり取り中。
「聖也よ、銀行口座を教えるのじゃ」
「えっ!? お、お金取られるんですか!?」
「馬鹿者。タブレット代は立て替えと言ったじゃろう。経理部と連絡が取れたので振り込んでもらうのじゃ」
「経理部なんてあるんですか!?」
「下界で生活するには先立つ物が必要じゃからな。郷に入っては郷に従えよ」
神様の世界にも、人間界で生活するためのルールが色々とあるらしい。人間の元で暮らす場合は、その人に毎月生活費が振り込まれるそうだ。うーむ、意外ときっちりしてるんだな。
「諸々込みで三十万じゃ。これだけあれば足りるじゃろう?」
「そんなに貰えるんですか!?」
「うむ、残った分はお主の好きにして良いぞ。ギャンブルでも風俗でも好きに使うがいい」
「そ、そんなことしませんから!」
詩織さんは神様なのにちょっと俗っぽいんだよなー。同居人が神様のお金ちょろまかして風俗とか行っていたら嫌でしょう?
夕飯カレーを食べてからは、詩織さんはネットサーフィンと読書。僕は開放された自分のノートパソコンで詩織さんのお金管理表を作ったり、ちょっとした生活のルールを書いてみたり。
「僕はそこのソファーで寝るので、詩織さんは寝室のベッドで寝てください。タブレットになったから、ベッドの上でも読書できるでしょう?」
「なんじゃ、水臭いのお。一緒に寝ればいいではないか」
「ダメです! それに神様と人間は価値観が違うので、魅入られて親しくなりすぎるのは良くないって聞いたことがありますよ! 孔子も『鬼神を敬して遠ざける』って言ってますし」
「お主は真面目じゃのう。確かに、神々の中には人間にとって悪影響を及ぼす者もおるが、私は違うぞ。大体、タブレットを使いこなして生活費までくれる神様は、かなり人間に近いと思うがの」
「そ、それはそうですが、とにかくダメです! 詩織さんは寝室へ」
彼女の背中を押して寝室に連れていき、バタンとドアを締めた。彼女はクスクス笑っていたけど……まあ、確かに詩織さんは悪い神様ではないんだろうな。こっちだってあなたみたいな美人を前に、理性を保つのでイッパイイッパイなんですからね! まだ二日目だけど、よく頑張った僕!
翌朝、ソファーの上で目を覚ますと、体が重い。金縛りか!? それとも慣れないソファーで寝たから体が固まってる!? 寝ぼけた頭で考えを巡らせながら被っていた毛布を剥がしてみると……詩織さんに抱きつかれていた。なぜまたこの狭いソファーの上で……僕の負けです。
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