第13話 先輩からのアドバイス
翌朝。ああ、腕が重い……昨日はちょっと飲みすぎたんだろうか。両腕が思うように動かないし、足もなんだか重い。目覚めからいきなり金縛り!? いや、首はちゃんと動くんだけど……右を見てみると布団の中から出ている茶髪。もう、詩織さん、またベッドの中に入り込んで! あれ? じゃあ左は? 恐る恐る確認すると、知らない頭が……いや、これってもしかして!?
「ちょ、ちょっと課長!」
「うーん、うるさいなあ……」
「もう朝か? まだ眠いのう」
なんで課長まで人のベッドに入ってるんですか! 昨晩は確か……食事の後も課長と詩織さんの宴会は続いていて、僕は眠くなって先に寝たはず。二人は『今夜は一晩中語り明かす』と言ってたはずだけど!?
「アハハ、やっぱり二時ぐらいになると眠くなっちゃって。ほら、私もこっちでの生活が長いから」
「アハハじゃないです! 詩織さんはともかく……いや、詩織さんもダメですけど、なんで一緒にベッドに入ってるんですか!」
「私は断ったんだけど、詩織に引っ張られて強引に。で、布団に入ったら速攻で寝ちゃってね」
しかも詩織さんとお揃いのジャージ……今までは仕事している課長しか見たことなかったけど、意外と私生活はだらしないのでは? いや、神様全般こういう感じなのかも知れない。
「とにかく、今日も仕事なんだからそろそろ起きてください」
「しょうがない、起きるとするかの」
「んー、久々にイッパイ喋ったからスッキリしたなー。さて、じゃあ私も仕事モードに戻りますか!」
二人はのそのそベッドから起き出すと、課長は衣装チェンジ。ああ、これを見るとやっぱり神様なんだと感心する。詩織さんもそうだけど思った通りに服が変わるアレ、どこからどうやって構成してるんだろうか。
三人分の朝食を作って、詩織さんに見送られながら課長と一緒に部屋を出た。
「お邪魔しちゃったわね、遠藤くん……ああ、ちょっと待って!」
「え!? 何か忘れ物ですか?」
「……」
何やら呪文の様なもの……あ、これは昨日会社で神の気配を取り除いてくれた時のヤツですね。
「二人分の『神の力』を纏っていたら、会社が大騒ぎになるでしょ?」
「課長まで『神の力』を垂れ流してたんですか?」
「まあ、お酒も入って爆睡しちゃってたからね」
テヘっとちょっとかわいく笑った課長。なんか、詩織さんに再会してからの課長の雰囲気、ちょっと変わったよなあ。僕の彼女に対する見方が変わっただけかもしれないけど。そして彼女は『神』作家さん! 今まで以上に親近感を覚えているのもある。会社までの一時間ほど、折角なので執筆について色々聞いてみた。
「課長は小説を書いて結構長いんですか?」
「そうでもないわよ。書いてるのはここ数年かしら。急に書きたくなっちゃって」
「へー。そもそも課長って何の神様なんですか? 詩織さんと同じ文芸の神様?」
「私は別に何の神様でもないわよ」
え、そうなの!? 課長の説明では『~の神』と呼ばれるのは人間が勝手に決めているだけで、神様が自ら名乗る様なものでもないらしい。詩織さんは自分のことを文芸の神様と言っていたけど、あれも人が付けたものなのかな? 人間に対してどういう分野や物事でちょっとしたご利益を授けるのかは神様次第……要は気まぐれらしく、一般的な交通安全や健康、合格などで加護を与えてくれる神様もいれば、もっと局所的な数学、音楽、執筆などの動作に対して加護を与えてくれる神様もいる。そこに何か決まりごとがあるかと言うと、それはないらしい。
「じゃあ、物に神様が宿るってあるじゃないですか。ああ言うのは?」
「正確にはああ言うのと私たちはちょっと違うわね。物に憑く神と言うのは精霊みたいなものなのよ」
人の信仰心などが集まると、物を拠り所にして意志が生じ、それが神として崇められると言う仕組みなんだそう。そうして崇められている内に、本当に神になる様なパターンもあるらしい。神様の世界は思ってたより複雑だ。
「やっぱり課長はそういう神様に関する様なことを書いてるんですか?」
「いいえ、私が書いてるのは恋愛、ラブコメとか現代ファンタジーとかかな」
神様がラブコメとか書くんですか!? ああ、めっちゃ読んでみたいなあ。カクヨムコン8の中間選考を通過したって聞いたけど、作品リストの中から探したら見つかるだろうか。
「今、ネットで検索しようとか思ってるでしょ!」
「あれ、何で分かったんですか?」
「探すんじゃないわよ! それと会社の皆にも言っちゃダメだからね! 内緒にしてるんだから」
「了解です! ……僕もそろそろ書き始めないとなあ」
「フフフ、初めて書くんだったら、色々と苦労するわよ」
「苦労?」
「そう。まずは自分のやり方で書いてみるといいわ。詩織に『二作書け』って言われてるんでしょう? 時間もたっぷりあるし、今のうちに書く難しさを味わっておくことね」
「えー、書き方があるなら教えてくださいよ」
「だーめ、何事も経験してみたいと身に付かないっていつも言ってるでしょう?」
そうだった。課長は会社では結構厳しくて、なかなか楽をさせてくれない。まあ、そのお陰で僕も色々と仕事を覚えられているんだけど……小説を書くことは仕事じゃないんだけどなあ。
「小説を書くことに関しては、『課長』はおかしいから、『先輩』と呼びなさい!」
「それもそうですね、プライベートで課長も変ですし……じゃあ、七緒先輩!」
名前を付けて先輩と呼ぶと、微妙な顔つきのまま一気に顔が真っ赤になる課長。
「や……やっぱり、課長でいいわ」
「えー、どうしてですか? じゃあ七緒さん、とか? 詩織さん、みたいに」
「名前で呼ぶな! 恥ずかしいのよ!」
どうやら普段から課長とか『浜田くん』とか呼ばれているので、下の名前で呼ばれると恥ずかしいらしい。詩織さんは最初から下の名前呼びだったし、課長だって詩織さんには『七緒』と呼び捨てにされてたけど、あれは大丈夫なのだろうか。照れる課長がちょっと可愛かったのでもうちょっとイジめたい気持ちもあったけど、あまりしつこくして会社でしごかれても嫌なので結局『課長』と呼ぶことに落ち着いた。
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