第13話 『TS娘』事象のシュバルツシルト半径

事象のシュバルツシルト半径:対象の「事象」の密度が極めて高い世界の限界半径内に近づくと、その「事象」を回避する事が出来ない。この限界半径の名称。そのような回避不能の状況を「運命」と呼ぶ。


              * * *


 新卒で入った『TS娘』、彼(彼女か)はネイリストとしての技術は合格水準だけど、『TS娘』としてはやはり半固定だし、可逆性の『OTMS』ゆえに長期間の女子化は望めない。

 つまり新店舗の業態として『看板娘』にするには少々無理がある・・・それについてムツミさんと話し合った結果、できれば『ネイル』がトリガーかそれ以外でも長期間女子化、あるいは『女子化固定』した『TS娘』を『ラボ』の一条教授に聞くようなかば強制的に言われた。

「え〜あそこはあんまり・・・」とごねるも、『師匠の命令よ!』と一蹴された・・・


              * * *


 で、一条教授にアポイントを取り『ラボ』に行く羽目に。

「なんじゃ、しのぶ。お前さんが自分からここ(『ラボ』)に来るとは・・・また何か困りごとか?」

 わたしが『検査』と、それこそ困りごと以外に訪れたくはない場所なのを教授も知ってるのでニヤつきながら聞いてくる。


「実はですね・・・」と、該当する『TS娘』の連絡先を教えて欲しい。これは今までの私的なお願いではなく、会社命令と説明しお願いする。

 教授はしばらく考え込んでたけど、「なるほど・・・それは会社としても困るのう」と口を開く。


「TS学ではしのぶも知っておるとおり、『TS娘』かどうかを判断するのは血中の『OTMSスキル値』の濃度なんじゃ。その濃度を測定し1~100の数値で判別し50を超えると『OTMS』と判定されるんじゃ。しのぶの場合はこの値が100を振り切って『ERR』(エラー)表示で測定不能、完全に『女子化固定』の『TS娘』というわけじゃが・・・」

 あ〜誰かの実験のせいで最初は75だったのが100越え・・・と言いかけたけど、話の腰を折るわけにも、気を悪くされて聞き出せる情報も聞き出せなくなるからやめておいた。

「この値は初めて『OTMS』判定された低い値、例えば50しかなかった『TS娘』が何らかのきっかけで急激に90といった高レベルに達することもあるんじゃよ。『実験』以外でもな」と、何か言いたそうなわたしの顔に気がついて言う。

 あ〜教授も『少しは』悪いと思ってるのかな?と感じたけど、それも口には出さなかった。

「そうした場合、98%の確率でトリガーの有無に関係なく女子化時間が長くなったり『女子化固定』する傾向にあるんじゃ。まだほんの数例だがの」

「ってことは、その数値が『TS娘』の運命を握ってるってことですか?」

「そうじゃ。TS学では『OTMSスキル値』90を、『カール・シュヴァルツシルトが求めたアインシュタインの重力場方程式の解』になぞらえて、『「TS娘」事象のシュバルツシルト半径』、そして『女子化固定』回避不能の状況を『運命』と呼んでいるんじゃ」あん?何半径だって? ま、いいや。

「じゃ、その値が90以上の子が・・・」

「じゃが『OTMSスキル値』が92でも女子化時間が長くならず『女子化固定』もしなかった子もおるから個人差があるようじゃ。それが残りの2%なんじゃ」

「そっか〜 でも可能性はありますよね?!」

「そうじゃの。リストは用意できるが、これは『個人情報』じゃから大学と会社間でのやりとりになる。情報開示の一筆を入れてもらうことになるが、それでもいいかの?」

「はい、サインでも何でも・・・あ、でもこれはわたしじゃなくてムツミさん・・・代表取締役に書いてもらいますんで」

「では、この『情報開示申請』に代表者のサイン・・・社印でもかまわん。それと代表者の印鑑を・・・」

「じゃ、それと引き換えにリストをいただけるんですね?」

「うむ。『女子化固定』済みの子と、数値的に長期化と固定化しそうな『TS娘』のリストを用意しておくからの・・・やっぱり若い子の方がええんじゃろ?」

「そうですね〜40歳くらいまでならオッケーですよ〜」

「じゃ、待っておるからの」

「は〜い!」


 こうして『女子化固定』済み、女子化時間が長いくなりそうな子と『女子化固定』の確率が高い『TS娘』の情報を得る手筈が整った。


             * * *


回避不能の状況を「運命」と呼ぶ・・・って話


以上 『TS娘』事象のシュバルツシルト半径

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る