第23話 『TS娘』と『TS島』

『TS島』──それは毎年夏と冬、一日だけTS市の遥か彼方にある『聖地』、晴れの海『晴海』コミケ会場の『男性向け』の日に現れる『列』と呼ばれる祭壇……。


***


 コミックマーケット、通称コミケ。

 ここ数年は感染症予防で自粛して、去年なんてチケット用意していたのに自分が感染してしまって行けなかった。

 今年の夏は仕事で行けなかったから、4年ぶりか。


 スケジュール調整もでき、2日目の午後のリストバンドチケットを手に入れられた。

 間に合うかな~と思いながら、オレは『聖地』を目指す……。

 駅を降り、あと一つ横断歩道を渡ってひたすら行けば一般待機列に並ぶだけだ……と思いながら信号待ちをしていると、右側の植え込みの縁石に座っている少女から声をかけられる。


「おい、そこのお前。ちょっといいか?」

 この寒空に薄いワンピース姿……しかも見れば15〜16歳の金髪? なんだこの子は? しかもなんか偉そうだ。

「な、なに? 急いでいるんだけど……さ、寒くないのか?」

 よく顔を見ると赤目だ。しかもなかなかの美少女……。


 あっけに取られていると、「聞こえてるならこっちに来い。お前に忠告がある」

「な、なんだよ忠告って……? それにお前、そんな薄着で──」

「いいから、早く来い。お前、TS好きだろ?」

 え、なにこれ怖い。オレがTS好きなのがわかるのか?


「あ、ああ。好きだけどそれが?」

「お前の身体から、TS好きの波動を感じてな。それで忠告をしてやろうと……」

 なにかの宗教か? それとも電波な娘?

 そんな目で見ているのを感じたのか、その少女はこういった。

「宗教でも電波娘でもない。レッキとしたTS娘だ」


「えっ? はぁ? TS娘ぇ?」

「だからな、TS好きならこれから東館のK列に行くんだろ?」

「ま、まぁ確かにK列には……」

 そう、今年のTS島は夏コミは東館のT列で、冬はK列だ。


「今年のTS島は、ヤバい。お前、気をつけていないとTS娘にされてしまうぞ? 『憑依』、『皮』、『入れ替わり』そして『朝おん』……何千だか何万分の一かの確率でTS娘にされてしまう……まぁそれがご褒美と思うなら別に構わんけどな」

 一体何を言ってるのかと呆然していると、少女の目が光り出す。


「そう。お前の前にいるのはTS娘にされた、元男だぁぁぁ!」

 オレは怖くなり、今年の冬コミを諦めて走って駅に戻った……。


***


『TS島』に行くと、『TS娘』にされちゃうかもよ?……って話


以上 『TS島』

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

『TS娘』思考実験 中島しのぶ @Shinobu_Nakajima

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ