第12話 『TS娘』は二律背反?

二律背反(Antinomie)とは、正命題、反命題のどちらにも証明できる矛盾・パラドックスのこと


               * * *


 TS学園大学 生物学部本館地下3階『生体検査室』(通称『ラボ』)にて。


「ほんっっっとうは、来たくなかったなかったんですけどっ! 検査結果を聞くのがウヤムヤになったんで来ました・・・」と今日はアポを取ってから『ラボ』を訪れた。

「ふん、それはしのぶが『暴力』をだな・・・」と教授。

「だから、ごめんなさいってば〜 今日こそちゃんと『検査』結果聞きますから〜」


「わかった、わかった。今年からは『普通』の身体検査結果だけじゃから気楽にの」

「は〜い」とイイ子ぶって返事する。

「イイ歳こいてなにかわい子ぶっとるんじゃ」

「きょうじゅ〜、そゆとこが・・・ま、いいや」


「なんじゃ、今日は素直じゃの。ま、いいか。去年と比べてほとんど数値・・・お、身長だけ2cm伸びたの。150cmじゃ」

「ありゃ〜そんだけしか伸びてないんだ〜 たしか教授、『肉体年齢は成長期だから身長の伸びは6cmぢゃ』って言ったのにな〜」

「それはあくまでも平均値じゃ。しのぶはおそらくもうこのままの身長じゃよ」

「そうかぁ〜」


「しかし、今日はなんか素直すぎるのう。 なんかあったのか?」

「ん〜 先日お湯がトリガーの子が見つかったって言ったでしょ?」

「そう言っとったの」


「で、その子見てて思ったんですけど、たまにアカデミーに男の子の姿でレッスン受けに来るんですけど、わからなくって『誰?』って聞くと『オレです、TS娘の・・・』って聞いてやっとわかるとかね。 今はわたし『誰か』のせいで固定化しちゃってるけど『TS娘』って男なのに女の子、外見は女の子だけど思考は男? 性同一性障害でもないしジェンダーレスでもないし、なんなの? 矛盾してるけど矛盾していない存在? ・・・って最近また特に思うんですよね・・・」

「しのぶは根に持つタイプじゃな。 しかしその話、なかなか哲学的じゃの。わしは生物学的な観点からしか『TS娘』を観察と検査しとらんから・・・あまりその考えはなかったのう」


「へ〜長年『TS娘』を研究してる教授でもそう思わなかったんですねぇ〜 わたしってばもしかしてすごい?」

「いやいや、『TS娘』本人ならではの観点じゃろうな。まさに二律背反『的』じゃな」と『的』を強調して言う。

「に、二律背反? ってなんですか? それに『的』?」

「『二律背反』というのは正命題、反命題のどちらにも証明できる矛盾、パラドックスのことで・・・平たく言うと一つの事柄から生じた結果や判断が、ともに成り立つと同時に矛盾している状態じゃが・・・だからあえて二律背反『的』というかの」

「訳わからないんですけど。 それにパラドックスって?」

「正しく見える前提や論理から、納得しがたい結論に行きついてしまう問題のことじゃ」

「ますます訳がわからないんですけどぉ!」

「まぁ『TS娘』は謎だらけってことじゃな」

「なんかいい加減な答えなんですけど・・・」

「誰か生物学的観点以外で『TS娘』を解明して欲しいものじゃ・・・」


               * * *


『TS娘』は二律背反で謎だらけ・・・って話


以上 『TS娘』は二律背反?

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