第10話 『TS娘』と秋の空 

生物学:生命現象を研究する自然科学の一分野


               * * *


 TS学園大学 生物学部本館地下3階『生体検査室』(通称『ラボ』)にて。


「ねぇ、教授・・・」と、今日こそちゃんと今年の『検査』を受けようとラボを訪れ一条教授が準備をしているとき、ふと疑問に思ってたことを聞いてみた。


「なんじゃ? しのぶ」

「前々から聞いてみようと思ってたんだけどさ、『TS娘』ってなんで医学部じゃなくって生物学部の『こんなところ』で検査を受けるのさ?」

「こんなところとは何じゃ、こんなところとは。ここは立派な『生体検査室』という名前があるじゃろが」

「それそれ、『生体検査室』って名前がすっごくイヤなんですよ〜 まるでモルモットとかマウスとかみたいで」

「あ〜それはわしもそう思っとるから普段は『ラボ』よんでおるおるな」


「でしょ〜? で、なんで生物学部なの?」

「それはの〜わしがまだ若い頃、初めて『TS娘』の存在が確認されたころのことじゃ・・・」と教授が延々と昔話から話してくれたことを要約すると・・・


 それは50年以上前に最初の『TS娘』が発見された頃にさかのぼる。

 TS学園本部では最初は医学部で『検査』を行わせる計画だった。

 が、『医学の常識』から外れた存在は認められないと『検査』を拒まれた。一条教授に言わせると『医学部の連中は頭がカタく、柔軟性がないからじゃ』とのことだ。

 それで医学部同様に自然科学の一分野で生命現象を研究する、生物学部にお鉢がまわってきたそうだ。

 生物学は広義には医学や農学など応用科学・総合科学も含み、狭義には基礎科学の部分を指すからそれで良かったらしい。


 その頃博士号を取ったばかりの『生体検査室』に所属していた一条教授が『TS娘』の『検査』を行った。まだその頃は教授じゃなかったけど、ややこしいからそう呼んでおくけど・・・あれ?この人いったい何歳なんだろう?

 で、『検査』・・・実際にはわたしも受けた、あんなことやこんなこと・・・つまりは程のいい研究材料にされちゃったわけなんだけどね。

 そして何人もの『TS娘』が餌食というか犠牲(あ、これはわたしの個人的意見だけどね)になり、一条教授は『TS学園』にその人ありといわれた『TS学』の権威とまでいわれるようになった・・・らしい。


 わたしの『検査』はアストラル製薬の『人類女体化計画』の一環で『女体化促進剤』(これってわたしのの血液から精製・製造したって聞いたけど眉唾物だよねぇ)を毎年投与されてその効果測定、および血液の採取だったかな。

 そうだ!その影響で可逆性が失われて『女子化固定』したんだ。


 教授の話を聞いてて、今まで受けてきた『検査』のことを思い出してだんだん腹が立ってきたぞ。今日こそ『検査』を受けようと思ってたけどやめた!


「教授! 今日は『検査』受けません! 帰ります!」と『ラボ』を飛び出した。


「な、なんじゃ急に・・・随分気分が移ろいやすくなってまるで『女心と秋の空』じゃな・・・う〜む、しのぶもだんだん『精神女子化』してきたのかのう・・・」


               * * *


『TS娘』は精神女子化するのか・・・って話


以上 『TS娘』と秋の空

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