第8話 『TS娘保護条例』
『TS娘保護条例』(TS市でのみ適用される自治立法):TS娘が基本的人権のある個人としての尊厳にふさわしい日常生活や社会生活を営むことができるように、必要となるサービスに関わる給付・生活支援事業やそのほかの支援を総合的におこなうことを定めた条例
*
二〇X〇年代、TS市で主に中学一年から高校三年を中心とした思春期の男子学生・生徒が突然身体が女子化する『OTMS(Occasionally Transformed Multiple Students)』とよばれる現象が急増した。
『OTMS』は通常『TS娘(てぃーえすむすめ)』とよばれ年間数万〜数十万人に一人の確率(〇・四から三・五人)で発現はしていたのだが……それでも他地域に比べると多い比率ではあった。
当時の男子中学生は約四万七千人(四七、一九〇人)、高校生は約四万人(四〇、三三七人)合計約八万七千人(八七、五二七人)。
そのうち三分の一弱にあたる二万五千人(二五、三八二)が『TS娘』となりその発生率は異常であった。
『OTMS』現象の初期段階では出生頻度が〇・一から〇・二パーセントとされる染色体異常による『クラインフェルター症候群』と疑われ、末梢血染色体検査による精密検査を行うも染色体異常はみられなかった。
男性ホルモンであるテストステロンは正常値以下となり、黄体化ホルモンと卵胞刺激ホルモンは高値を示し、インスリン様因子3は正常値以下、インヒビンBは測定感度以下となり、テストステロン補充療法も効果はなかった。
不幸中の幸い?ではあるが、多くの『TS娘』はなんらかのトリガー(女子化因子)によりいったんは女子化するがそのトリガーがなくなれば元の男子に戻る『可逆性TS娘』で、青年期になればほぼ九九・九パーセントは女子化することはなかった。
しかしながら『TS娘』はその特殊性から、
・性的な嫌がらせ、暴行を受ける
・ネットに噂や写真を流される
・嫌なことを強要し恥をかかされる
・大勢の前で笑い者にされる
などの対象になりやすいため、TS市では急遽その対応を行うべく画策を図り『TS娘保護条例』の制定を急いだ。
野党側の主要争点は『TS娘』はアストラル製薬系と思われる学校に入学または編入される条文部分であったが、市議会において出席議員の圧倒的過半数の賛成により決議、即日公布され十日後に執行された。
賛成議員である与党議員の多くがアストラル製薬系議員とうわさされ、実際に『TS娘保護条例』執行後には多くの『TS娘』は『保護』と『検査』のためアストラル製薬の一〇〇パーセント資本子会社の男女共学の中・高・大学の一貫教育校の『学校法人TS学園』に編入されることになった……。
下記に『TS娘保護条例』の元となった文書を添付する。
『TS娘』憲章
わたくしたちは、TS娘の尊厳とジェンダー平等を基本理念とし、あらゆる分野へTS娘が平等に共同参加し、ともに生きるTS市づくりをすすめることによって、平和な社会をつくることを願い、この憲章を定めます。
一、ジェンダー平等教育を家庭、TS学園、社会のすべての分野で推進します。
一、差別されずに働く権利がすべてのTS娘に保障される社会をつくります。
一、TS娘の保護と健康増進がすべてのTS娘に保障される社会をつくります。
一、すべてのTS娘が自立して生きることのできる社会をつくります。
作成・発信部署:学校法人TS学園『TS娘憲章』策定委員会
公開日:二〇XX年七月一〇日 最終更新日:二〇XX年八月三一日
以上 『TS娘保護条例』
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