第九話 ガーベラ


どれほどの時間が経ったのだろうか。雨はまだ降り続けている。

政宗の死体は変わらず椅子に座っている。俺は最初に見た遺体の服とシンボルを見てすぐに分かった。あれはマッセミリアーノの部下だ。政宗もマッセミリアーノを捜索していた時に。。。。

外道が。

しかし、机の引き出しにはマッセミリアーノの居場所を含め様々な情報が入っていた。これは決して無駄にしない。


手紙をゆっくりと政宗の握りしめてる手から離すと、封を開けた。手紙の文字は昔の走り書きよりも少し丸くなっている様に感じる。所々血痕で文字が見えないが、文章自体はまだ理解できなくはない。そこには政宗に最近起きた事や、していた事が書かれている。かなり細かく書かれていたが進む度に文字がどんどん弱々しくなっている。それでも俺は一文字一文字読んでいった。そして最後の一行には最後の力を振り絞った様に、久美子へと書かれていた。

俺はキーチェーンを握り締めると、精一杯の力で壁を殴った。

血が滲み出ている拳で俺は顔を覆い、呟いた。


「昔から・・・趣味だけは似てたもんな。」


雨音のせいか、俺の泣きそうな声は一瞬で掻き消された。


「俺の最初で最後の信念、認めてくれるか?」


俺は静かに、涙を流しながら呟いた。雨はいつの間にか止み始めている。数十秒の沈黙の後、俺は顔を拭うと政宗に背を向けた。扉付近では岡田がまだ立っていた。


「遺体については本部に連絡しろ。」


「はい。」


岡田は返事を返したが、俺は何も言わずに階段を降りて行った。


「にしても、えらい現場やなー、これ。」


岡田はゆっくりと政宗の死体へ近づいている。


「あちらの仏さんは二人共スリーベース程強いし、奇襲も仕掛けたはずや。でもそこから、この人は的確に急所を一発で撃ってる。で、手負いのまま手紙を書ききり、息絶えた。」


岡田の独り言が部屋に響く。そして岡田は椅子に座っている骸骨を見て、言った。


「残念やなー、一回あんたとやってみたかったわ。」


少し間を置き、岡田はまた口を開けた。


「ただ、死ぬ時には僕もそんなふうに死にたいわ。」


そう言った後、岡田は机で何かを見つけたらしく机に顔を近づけた。


「よく、雨風に耐えたなー。何やったけ、この花。ガーベラ?まあ、ええか。」


岡田はさっさと下へ向かおうとしたが、最後になぜか椅子の上の骸骨が微笑んだ様に見えた。

扉へ向かって歩き始める中、やっと出て来た太陽が白いガーベラを照らし始めた。





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