過去編6 信念

「こんな居酒屋があったのか。」


旭警部は花より焼酎と書かれている看板をもの珍しく眺めている。


「入りますよ、警部。」


俺と政宗、そして警部は一番奥の席に座り込んだ。


「警部は何にします?」


「ビールで。」


「俺は焼酎、で政宗は?」


「ビール。」


「おやっさん、それで。」


店長は無言で首を縦に振った。そうすると、警部はゆっくりと喋り始めた。


「山田警視は光田組と自分で契約している。あの人は昔から欲が強い人だったが今ほど酷くはなかった。

酷くなったのは光田組と契約してからだ。その頃からどんどんプレッシャーが掛かっているらしい。最近は、署内の暴力も普通になってきてしまっている。

全く、どちらが正義なのだか。。。」


そこで飲み物がカウンターに運ばれてきた。


「ありがとうございます。」


一口ビールを含むと警部はまた口を開いた。


「これが我が署の真実だ。」


周りでは居酒屋特有の音楽が静かに流れ続けていた。

その後の事はいまいち覚えていない。俺達は深夜まで飲み続けた。あるいは現実逃避をしたかったのかもしれない。

目が覚めると俺は署内のソファーで寝そべっていた。酷い二日酔いで頭が痛い。よろよろと起き上がると顔を洗いに俺は歩き始めた。ふと机を見ると今まで見た事の無い紙切れが置いてある。何かと思いそれを拾い上げると、一瞬で目が覚めた。そこには鉛筆でこう、走り書きされていた。


「新宿署、そして永澤へ。

申し訳ないが、俺、佐々木政宗は今日をもって新宿署を退職します。短い間でしたがお世話になりました。

そして、永澤。お前がこれを見たら今まで通り警察を辞めて俺に付いてくるだろう。ただし、今回は付いてくるな。

俺はお前の事を長年見てきた。お前は良いやつだし、凄いやつだ。ただ、一つ弱点がある。信念の無さだ。思えばこうなったのも俺のせいかもしれない。俺は俺の信念でここを出て行く。良い人もいたが、俺にはとてもここが正義の集まる場所とは思えん。けれど永澤、お前は此処にいろ。旭さんなら決して悪くはしない。

最後にもう一度聞く。

永澤、お前の信念は何だ?」


読み終わると、また頭が痛くなってきた。ただし今回は二日酔いのせいかは分からない。確かに政宗は自分の最初の信念を一番守り抜いてきたのかもしれない。正義という信念を。

また頭が痛くなる。洗面所に向かうが、置きがきの最後の一行がまだ頭に残っている。


俺の信念は、何なんだ?


まるで夢から覚めた様な気分だった。旭警部に報告した後、警部は何も言わずに下を向いた。しかしまた上を向いた時の眼にはまだ光が、いや信念があった。

そして俺は新宿署で働き続けた。一度は俺の信念を見つけたかと思った事もあったが、それもまた目の前で消えてしまった。


俺の信念は。。。



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