過去編5 キャリア


廊下には俺達の心とは裏腹に軽快な音が鳴り響く。足取りが遅くなり続ける中、俺たちは署の扉の前に着いた。


「疲れたー!」


第一声を発したのは政宗だった。


「おっ、初任務はどうだった?」


次に健やかな笑みと共に答えたのは山田警視だった。隣には旭警部も座っている。


「それが、。。」


「失敗していたとしても大丈夫だ!報告してみろ。」


山田警視は笑顔のまま聞いてきた。


「実は退却は成功したのですが、光田組の。。」


光田組と言いかけた時警視の眉がピクリと動いた。そして警視は大きい声で俺を遮った。


「奥で、話そうか?」




小部屋には俺と政宗、そして旭警部が呼ばれていた。


「さて永澤君、続きを話してもらおうか。」


警視の笑みは保たれているが明らかに雰囲気が違う。


「はい、光田組の隆元と呼ばれていた男が山田警視によろしくと。そして次回光田組の約束破ったら次は無い、と。」


俺が喋り終わった頃には山田警視の笑顔は消えていた。


「それで警視、この約束と言うのは?。。。」


すると警視が立ち上がったかと思うと、俺の胸ぐらを掴んで来た。


「お前には関係のない事だ。」


低い声で囁いた山田警視の顔は数分前とは別人の様に恐ろしくなっていた。警視は俺の胸ぐらから手を離すと俺達に向かって口を開いた。


「永澤、政宗、お前達はもうこの任務から外す。後は旭と他が片付ける。」


「なっ、なぜですか!?任務はまだ終わってません!」


警視はポケットから煙草を取り出すと、その場で火をつけ始めた。


「永澤、お前キャリアだよな。」


「はい。それが何か?」


「なら良い。」


警視は深い息を吸った。


「永澤、これはいつも覚えておけ。俺達は人の上に立つ為に生まれたのだと。日本の未来を本当に背負っているのは俺達1パーセントだけだ!ノンキャリアなど所詮俺達が上がる為の土台だ!」


山田警視の口調がどんどん荒くなっていく。


「警視、いい加減にしてください。」


旭警部が中に割って入って来たが、逆に事は悪化した。


「ノンキャリアは黙っていろ!」


部屋に生々しい音が響いた。旭警部の頬は赤く腫れ始めたが警部は立ったまま微動だにしなかった。


「山田さん、それは少し大人気なさすぎじゃないですか?」


俺があまりの事に声が出なかった中、政宗はもう山田警視の目の前に立っていた。政宗と警視が向き合うと山田警視の大きさがさらに際立つ。百九十センチ程だろうか。


「お前が例のキャリア首席か〜。」


睨み合いが続くかと思いきや、突然山田警視に笑みが戻った。


「その調子で頑張れよ!」


警視は政宗の肩を叩くと、俺の方にまた振り向いた。


「お前もだぞ、永澤!」


そう言い放った後部屋の外へまた出ていった。


「うへー、痛った。」


肩を回しながら政宗は近づいてきた。


「あのおっさん腕力半端ねえなー。」


「ていうか何で警視、突然戻って行ったんだ?」


「いや、あのおっさん次はもうねえぞって目してたからこれ以上揉め事作りたくなかっただけじゃね。」


「。。。。」


「それで旭さん、何か言いたい事あるんじゃないの?」


旭さんはもう椅子に座り自分の怪我を手当てしていた。そして俺たちの方を向くと


「ああ。」


と言った。











  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る