第八話 佐々木 政宗
その小屋には「佐々木探偵事務所」と書いてあった。看板の文字はもう剥げ落ちる寸前であり、壁もすでに中の骨組みが突き出ている。屋根には樹海の木や蔓が根を張ってあり今にも崩れてきそうだ。
「こりゃ年代物や。」
岡田は小屋の壁を触りながら喋り始めた。
「もう調査は無理か。」
俺が聞くと、岡田はニヤッと笑った。
「でも、土台がしっかりしているんで後数ヶ月は持ちますわ。」
「捜索を始めるぞ。」
扉は軽く押すとすぐに開いた。埃と共に応接間らしき物が現れた。建物の中の電気は止まっている。懐中電灯を取り出すと、俺は建物の中を照らし出した。建物には一階と二階があり、一階には小さい椅子とテーブルが置いてある。奥には小さいトイレが一部屋あったが、それ以外も普通の家にある物ばかりだった。
「埃が、”ゴホッ”酷すぎやな。」
咳が止まらない様子の岡田は口をずっと押さえている。
「ここには大した物は無い、上へ行くぞ。」
俺が岡田に命令すると、口を開けたくないせいか岡田は静かに着いてきた。しかしこの階段も今にも崩れそうに見え、俺と岡田が階段を一段上がるたびに物凄い音で軋んでいる。二階に近づくと、少しずつそよ風が頬に当たり始めた。軋む音は止み、屋根の雨音だけが静かに反響している。
岡田は新鮮な空気を求めてか、俺よりも早くに部屋へ入ろうとした。しかし扉の前で岡田は突然止まると、俺に振り返った。
その部屋はかなり小さかった。扉はもう剥がれており、まるで誰かに蹴り破られたような痕跡が残っている。部屋は古い西洋風のもので少しそっけなく飾られている。タンスや小さい椅子、机。いかにも事務所の部屋と言う感じだ。
そして、部屋の隅には何体もの白骨死体が転がっていた。岡田は何も言わずその遺体の前で一度手を合わせた。床には血痕らしき後が染みとなって残っている。遺体は黒いウエストコートをを羽織っており、隣には黒いサングラスが転がっていた。
「集団自殺、な訳ないか。」
周りを観察していた岡田は静かな口調で言った。確かに彼らの頭蓋骨には他殺としか思えない銃痕があった。
「ほら、あそこにも仏さんがおる。」
岡田が顎で指す場所にはもう一つ死体があった。こちらの死体は窓の近くの机にある椅子に座ったままの状態でいる。窓の留め金は壊れかけており、風が優しく流れてくる。この隙間風があのそよ風の正体だったらしい。木製の机は樹海の植物に侵食されておりその男の周りには雑草や花が咲いていた。机の左手側には空になったマカロフとボールペンが転がっている。
男の右手にはまさしく後生大事にしているかのように、紙切れが握り締めてあった。とても強く握っていたらしく窓からの風にも吹きとばされていない。俺が紙を取ろうとした時、男の胸元の何かが光った。俺は手を伸ばすのを止め、それを見ると名刺が現れた。その瞬間、俺は硬直した。
俺は自分にも聞こえるか聞こえないかぐらいの大きさで呟いた。
「。。政宗。」
雨が少し激しくなり始めた。
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