第七話 樹海
「永澤は〜ん!待ってえや!」
俺が任務の為に駐車場へ向かっているとやはり後ろから岡田が付いてきた。こいつは色々な意味で面倒臭すぎる。
なぜ旭警視はこんなやつに目をかけるのか。。ただし所詮新人。これについて来れるか試してみるか。
俺はそのまま数歩進むと突然歩調を変え角を曲がった。その速度を利用して一瞬で新宿の灰色の人混みに紛れる。これで殆どの奴は巻けるハズだ。周りを確認して、俺がまた目的地へと向かい始めようとした時誰かに肩を叩かれた。まさかと思い振り向くと、そこにはいつも通りにこにこと笑っている岡田の顔があった。
「置いてけぼりは流石にひどいわ、”先輩”。」
息も切れてない様子の岡田を見て俺はまた深い溜息をついた。
「ついて来い。」
フォルクスワーゲンのエンジンは、中古をレンタルしたせいか変な煙が出て来ている。俺はこの先の山道をGPSで眺めると、金を惜しんだことを後悔した。岡田は助手席に座っているが、車に乗った時からやけに静かになっている。外では少しずつ小雨が降り始めている。
「この情報はほんまに信用できるんよな、先輩。」
突然岡田が聞いてきた。
「もう説明したはずだ。これはガセネタではぜっ。。」
言いかけた所で岡田がまた遮った。
「いや、僕も先輩信じているんやけどな、もしもこれがガセやったらかなりヤバいと思うて。」
そういう岡田と俺の先には青木ヶ原の樹海が不気味に聳え立っていた。
窓の外では小雨が降り続けている。もうかれこれ二十分ほど樹海に沿って走っているがただただ灰色の木が続いている。本当はこう言う樹海の薄暗い緑色に惹かれるのが普通なのだろうが。そう考えていると目的地が見えてきた。
「着いたぞ。」
そう言うと岡田は欠伸をしながら出てきた。
「ここが、富士河口湖町5丁目だ。」
「おもろくないわ〜。樹海言うっとたしもっと不気味な所やと思うたのに、普通に田舎やん。」
愚痴りながらも岡田は大人しくしてくれている。ここは富士樹海のすぐ隣にある村だけあり、全体が樹海の端から奥へと深く入り込んでいる。
五百人程しか人口はいないが、ここからはもう地道に調査して行くしか仕方ない。
「先輩、またキーチェーン持ってるわ。毎回付けてるやん。」
突然岡田が話しかけてきた。
「お前には関係ない。それよりも調査を始める。これからは地。。。」
「地道に調査するしかない、やろ。」
「。。二手に分かれるぞ。」
それから四時間後、俺たちは佐々木の佐の字さえも聞くことは出来なかった。気付けば日が暮れ始めている。
「これで最後、か。」
この住居はこの集落でも最も樹海に入り込んでいる場所であり、もう殆ど希望は残っていない。やはり、あの情報はもう古すぎたのか。考えていると岡田が玄関からひょっこり顔を出した。
「先輩〜、ヒットやで。」
「正宗さんなら、あたしゃ知ってるよ。」
そこにはかなり年老いた老婆が立っていた。
「ほんまですか!でも正宗はんの居場所は流石に知らんでしょう?」
「そりゃあ知ってるよ。」
「さすが千代子さんやわー!」
彼女の名前は千代子さん、昔佐々木の所へ町内委員会として訪ねた事があるらしい。
「先輩、地図もらいましたで。」
岡田は千代子さんから地図まで貰ったらしい。あいつの人たらしっぷりには少し憎たらしくなってしまう。
「千代子さん、本当に有難うございます。」
「あんたら、気を付けなよ!」
俺は千代子さんの方へもう一度向くと頭を下げた。
「行くぞ、岡田。」
「分かっとります。」
樹海の奥に行けば行くほどそこには白骨化した遺体などが転がっている。これ程状態が悪ければもう他殺なのか自殺なのかは判別できない。警察もこの樹海にはかなりの間困らされていた。ここで自殺する人は抑々、「樹海で死ぬ」と言って死なないので、捜索願いも出されない場合が多い。また樹海では、通報があった時等を除き、捜索活動をするのを止めている。ニュース等になって、樹海で自殺する人が増加するのを防ぐ為だ。こうして樹海の遺体たちは人知れず白骨になって行く。。。
「この地図、大丈夫なんやろうな。」
岡田はぐるぐる回りながらを地図を色々な角度で見つめている。その地図には何本かの線が複雑に重なり合っており、家らしき絵が到着点に描かれていた。
「地図によればもうそろそろ見えてくるはずなんやが。」
岡田が地図と格闘している間に俺が辺りを見渡していると、少し先に古い小屋の様なものが見えた。
「岡田、見つけたぞ。」
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