過去編2 二人のジョージ
政宗と俺の接触は必然的に増えていった。それからはいじめや学校で起こった事件に積極的に関わっていった。成功率が高くなかったとしても、だ。俺は政宗といる時はいかなる時よりも充実していた。毎日何かを成し遂げられている余韻に浸っていた。けれども政宗と一緒にいる間が長くなればなるほど俺は悟り始めた。政宗との距離を。
正義感も、実力も、そして天賦の才でもあいつは俺を上回っていた。けれども政宗は俺を対等に扱ってくれた。
だからこそ、苦しかった。
唯一、政宗と俺を繋げていたのは奇遇にも趣味だった。食べ物も、漫画も、好きな色も、女も。この事実が実は俺と政宗の間に亀裂を作らなかった理由だったのかもしれない。
俺か政宗がやる事には、いつも政宗か俺がいた。
「永澤!この子タイプじゃね。」
ベッドに寝転んでいる俺の目の前にグラビア雑誌が掲げられてきた。
「。。めっちゃタイプ。」
「だよなー。」
今まで父か母しか入ってきた事のない部屋に誰かが俺と雑談をしている。
そう思うと何故か俺の口元が緩んだ。
「うわっ、こいつニヤけてる!キモっ。」
「うるせーよ!」
そう言うと俺は政宗に飛びかかった。この頃の俺はまだ政宗は絶対に俺の前からは消えないと思っていた。
いや、信じていた。
「夏は夜中も蒸し暑いから嫌なんだよなー。」
手を仰ぎながら政宗は服をはだけさせている。
「ああ、そうだな。」
「今日はなんか反応悪いぞ、お前。」
そう政宗が言い放った後、久しぶりに会話が途切れた。そこには都会では滅多に味わえない自然の静寂が数秒間広がった。坂道を登り続けていると、政宗は道端に何かを見つけたらしく少し道を外れていった。
「永澤もこっちに来いよ!」
政宗の背を追いかけていくと政宗は少し手前でしゃがみ込んだ。
「こんなの最近は見かけなくなったよなー。」
そこには古びた青色のガシャポンがポツンと置かれていた。
「おっ、これガッチャマンだ。」
政宗はすっとんきょうな声を出した。
「まだ動くのかな?」
財布から百円硬貨を取り出すと政宗はガシャポンを弄り始めた。少しすると政宗は硬貨を挿入した。
「来い!」
少しの時差の後キーチェーンが出てきた。
「来たーー!!ジョージ!好きなやつ出てきて良かったー。」
はしゃぐ政宗を眺めていると、政宗は俺にも百円玉を渡してきた。
「お前もやってみろよ!」
俺は断るはずも無く、ガシャポンを回した。
「おー、お前もジョージじゃん!」
政宗には伝えてはいなかったが、俺の最も好きなキャラもジョージだった。俺はジョージの荒っぽくて、運命に抗い続ける所が好きだった。政宗は何か思いついたらしく俺に喋ってきた。
「政宗、これ俺達の親友の証な!」
「はあっ?!」
「同じキャラクターが当たるとか中々無いだろ!しかもこれだったら絶対に互いを思い出せる。だから絶対に無くすなよ!」
がむしゃらで独りよがり、まるでジョージ。
「うえっ、こいつなんか笑ってる!」
「うるせー!」
政宗を追いかけていると昔の頃の景色が重なった。
がむしゃらで独りよがり、だからこそ俺はこいつに惹かれたのかもしれない。
やっと雲から出てきた月の光に俺と政宗の後ろ姿が照らされた。
ポケットからはみ出ている、二人のジョージも。
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