第四話 アガパンサス
フロラリー久美。八年前ほどに開業し、それからは細々と営業を続けている。八時には閉店するので、通うなら朝。
「失礼します。」
ゆっくりと、古い木製の扉が開く。
「いらっしゃ。。あ、永澤さん!」
「お邪魔します。」
「永澤さんはもう常連さんなんだからそんなに畏まらなくていいのよ!」
「すいません」
少し怒った顔をする彼女を見て俺はもう一度言い直した。
「。。。はい」
満足げな顔をして久美子さんは店の前にあるベンチに座った。俺がそのまま立っていると彼女は手でベンチを二回叩き、座るように促してきた。渋々、俺はベンチに座り込んだ。ベンチの周りには様々な種類の花々らしきものが置いてあり、朝早くから水をやっていたのが良く分かる。
「私は昔から花が好きだった訳じゃないの。」
彼女は話し始めた。
「私は小さかった頃、植物自体あまり好きではなかったの。生きているけど、喋りもしないし動きも少ししかしない。何であるのか何回も思ったわ。やる事と言えば棘や毒を作ることだけ。正直、忌み嫌っていた。」
突然、彼女は花を一本抜き取った。
「あれは小学四年ぐらいの頃だったと思う。私は母と花屋さんに花を買いに行ってた。母は嬉々としていたけど私は全く逆だった。ほとんどの間私は隅で突っ立っていた。ほんと、あの頃の私は可愛げが全く無かったわ。すると、女の店員さんらしき人が私に気が付いて近づいてきた。彼女は、
「お花は好き?」
と聞いてきた。私が無愛想に首を振ると、彼女は一瞬困った顔をして何かを取りに行った。戻ってきた時、彼女は片手に花を一輪持っていた。そして私にこう聞いたの。
「この花はどんな性格だと思う?」って。私は答えずにそのまま下を向いていたけど、その人は気にせずに喋り続けた。
「花には一つ一つ、花言葉というものが付いている。そして少なくとも、私は花言葉が花と人間の全てを私たちに伝えてくれる唯一の方法だと思うの。」
すると彼女はさっきの花を私に手渡し、「この子はアカネという名前。花言葉は、私を思って。その花はチョー自己中なんだよ。」と笑いながら言った。
その後の事はあまり覚えていない。でもその後から私は不思議と植物が嫌いじゃ無く逆に好きになったの。」
すると彼女は俺の方を向き、さっきの花を手前に差し出した。
「私も永澤さんにこの花を渡したかった。」
その灰色の花は細い花びらを六本付けており、その花びらには濃い筋が通っている。
「この子の名前はアガパンサス。花言葉は。。」
「ママ〜!」
店の奥から和子ちゃんの声が聞こえてきた。久美子さんは言いかけた言葉を慌ただしく飲み込み、
「長い話を聞かせてしまって、すみません。」
と頭を下げた後立ち去ろうとした。その後ろ姿を見ながら、俺は口を開いた。
「花を一束買っていいかな。」
すると彼女はピタリと止まり、
「もちろん!」
と笑いながら言った。
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