第五話 隠蔽

警察の公表する事件の五十パーセント程には何かしらの裏がある。裏金問題や不正経理、不都合な事例の隠蔽などとその例は数え切れない。優子の事件も例外では無かった。


俺が優子を殺した犯人達を逮捕した後、直ぐに裁判が行われた。もう裁判の結果は明らかだと皆、口を合わせて言っていた。俺もこれで優子の無念は少しでも晴れると思った。しかし、裁判は予想がけない方向へ転換していった。


彼らは覚醒剤などの使用による人格分裂などで責任能力が無かった、と判断され死刑ではなく無期懲役と判決されたのだ。俺が混乱しながら判決を聴いていると、奴等は俺の前を歩き始めた。俺が奴等の顔を見上げるとその顔には犯行を犯した時と全く同じゲスの顔がにやけていた。

その瞬間俺の感情は混乱から一瞬で怒りに変わった。


この手でこいつらに優子の苦しみを味わわせたかった。しかし出来なかった。何処かで優子と京子が見ている気がしたからかもしれない。判決の後も俺は犯人達の素性を調べ続けた。何も出てくる保証は無かった。けれども心のどこかであいつらの嘘を証明できる証拠があると信じきって居たのかもしれない。ある時俺は七徹をしてインターネット中を探していた。ダークウェブ、マリアナウェブ、挙句の果てには警察関係者の機密情報。。。藁にもすがる一心だった。その時、目の片隅で何かがヒットするのが映った。


マッセミリアーノファミリー。イタリアを本拠地としている大マフィア。違法薬物の販売や人身売買を主に商売として行っている。

最近はアジアにも根を回し始めておりボスのアベラルド・スピリア・マッセミリアーノは日本を気に入って何度も入国を繰り返している。そして日本支部の下っ端としてマッセミリアーノは地方の半グレ集団を集めていた。暴走族ほど誇りはなく、暴力団ほど力は無い。多少報酬やヤクをやれば大人しくなり、直ぐに切り捨てられる。

まさに理想の手足だったのだろう。


マッセミリアーノはさらに彼らにノルマを与えていたらしい。その中でもかなり権力のある半グレ、関東連合の下っ端、田中陽一、そして渡辺実達が優子の事件の犯人だった。そう、彼らはマッセミリアーノファミリーの命令でその日の人身売買のノルマを達成しようとして居たのだ!そして捕まった彼らが死を恐れて自白するのをマッセミリアーノは恐れ、無期懲役へと揉み変えたのだ。一生見張って居られるように。


しかも、マッセミリアーノには日本に大きなアドバンテージを持っていた。法律というアドバンテージが。マッセミリアーノの三歳年下の弟、マッテオ、は若い頃から外交官に抜擢され、後にすぐ日本の大使を担った。これまでもマッセミリアーノはマッテオの外交特権を何度も利用している。これを見たその次の瞬間、俺は誓った。マッセミリアーノには俺がこの手で復讐すると。

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