誓いの一歩
「シュウイチさん、一緒に行く――いや、難民になろうって覚悟の人たちの事は、
とりあえず、流洲の関を越えて、オウビに連れて行くと良い――街のお偉方とは、大まかな話が着いてるからさ」
「――はっ!」
ソウタから、まずの采配を聞いた、シュウイチと周りに集っているオウクの民たちは、その返事に続いて一様に頷いた。
「『俺たち』がシンガリをする――とりあえず、追っ手を出す余裕を無くすぐれぇには暴れるつもりだから、
ソウタは、そう楽しげに言って、一抹の不安が過ぎっている表情をしている、民たちに見える様に、ドンと自分の胸を叩いた。
「刀聖様には、無礼な愚問かもしれませんが――御武運をっ!」
シュウイチが武人流の作法で敬礼をすると、皆がそれを真似し、一斉にソウタに向けて
「へへ、ありがとよ。
さあっ!、行った行ったぁっ!、光刃の巻き添えには……」
ソウタは、そうやって礼を返すと、伸ばした光刃を振るってバルコニーの隅を叩き斬り、その残骸を臨戦態勢の南コクエ兵たちの頭上へと落としたっ!
「――うわあああああっ!」
建物の残骸の雨霰に、再び南コクエ兵の一団は混乱したっ!
「――なっ?、喰いたくねぇだろ?」
「はい!、皆ぁっ!、私に続けぇっ!」
――ワァァァァッ!
シュウイチの下知に従い、民たちが退路へと向かう様を確認したソウタは……
「さあ、俺も、"本性"ってのを、現しちゃおうかねぇ……」
――仮面の下なので解り難いが、目付きを一変させ、南コクエ兵の一団に向けて、単身突貫を仕掛けたっ!
「サトコ――私たちも退くぞ」
「はい、でも、少しだけ待ってくれる?」
アオイに、この場から発つ事を促されたサトコは、退路を行こうとする民たちへと向け……
「――我が民たちよっ!
今、皆が踏んだ一歩は、この
今の一歩は、このオウクに"戻るための一歩"――皇たる私も!、皆と共にその一歩を踏みっ!、この一歩の感触を、いずれこの地へと戻るための誓いとして!、この胸に刻みますっ!」
――そう叫び、大きく一歩を踏み出した。
その叫びと、力強い足音を聞いた民たちからは、割れんばかりの歓声が挙がったのは、言うまでもない。
「あっ、姐さん――どうします?」
ソウタとユキオが対峙する、バルコニー前からは少し離れた場所で、カオリを捻じ伏せたままのスズの下に、コケツ衆の猫族たちが集まり、対応方針を彼女に尋ねていた。
「ふふ、ふふふふふ……」
スズは――いや、スズとその足下に伏せられているカオリも、不気味な笑い声を漏らしていた。
「――退け、コケツ衆。
先の大戦において、先世リョウゴ様の武勇を目の当たりにしたという貴様らならば、新たに当世と
特にスズよ――大武会において、リョウゴ様と直に刃を交えた事があるという、そなたならば尚更であろう?」
カオリは不気味な笑い声に続き、スズたち戸結衆に撤退を忠告した。
「確かに……アタシたちとリョウゴは、一時は一緒に戦った仲だったし、アタシはアイツと当たったおかげで、大武会でも、十六傑止まりに終わった。
たとえ、代替わりした相手でも……あんなバケモンとやり合ったら、タダじゃすまねぇだろうねぇ」
スズは顔を隠す様に俯き、カオリの言葉を肯定して数度頷く。
「――つーワケで、"アンタたちは"退きな。
南コクとの……いんや、正しくは北コクとの契約は、もうすぐ切れる頃合いだし、長居してりゃあ面倒なコトになりそうな気配だからね」
スズは先程気にした、矢が飛んで来た屋上を見据え、仲間たちに淡々とそう指示をする。
「ふむ、始まったか――手筈どおりだな」
「ちっ!、アンタ――刀聖のお仲間かいっ!」
その屋上では、ギンとシロの睨み合いが続いており、二人の相対は膠着状態となっていた。
(ただの
(むう――やはり、コケツの手だれが相手ともなれば、弓を封じられた距離では決め手を欠くか……)
ギンが醸す達人の気配に、シロは打つ手に拱き、対するギンもシロが覗かせる高い戦闘力を感じて、二人の間の空気は張り詰めていた。
――ヒュンッ!
「?!」
突如として飛んで来た、手裏剣の類の閃きを察したシロは、それを寸出で弾くっ!
「――ギン、援護する」
投擲の主――ショウゾウは、別の屋根の上に姿を現し、指の間に挟めた暗器をチラつかせ、シロの動きを牽制する。
「ちっ!、二対一かい――分が悪いねぇ!」
シロは、あからさまに苛立ち、得物を二人へ交互に構える。
「仕事は済んだか?」
「ああ、お前の鼻なら、直ぐに気付くはずだ」
この、口数が少ない者同士の会話という、ある意味ではレアな描写の中、シロは訝しげに……
「――仕事?、アンタら、まだ何か……」
シロは、そう何かを言い終わる前に、よく効く鼻を擽った臭気を気に掛け、それがした方へと目を向ける。
「!!!、兵糧倉に火の手?!、これがアンタらの『仕事』かいっ!」
「ああ、そうだ――さて、どうする?
二対一となっては、この場も『詰み』だぞ?」
上がった火の手を悔やみ、苛立ちを見せるシロに、ギンは鋭い眼光で彼女を睨みながら勝利宣言をした。
「タマの話では――"コケツは益を失した仕事はしない"と聞く。
我らも、次の仕事――避難民たちの支援に回りたいのでな……コレで退いてくれれば助かるのだが?」
ギンは矢を番え、弓の弦を引きながら、シロに撤退を薦める。
「ちっ!、タマの知り合い――てぇ事は、アンタが姐さんが会ったって言ってた狼族かい」
シロは、苦虫を噛んだ様な表情でそう言うと、徐に刀を収め……
「――わぁーったよ!、退いてやる。
アンタらを苦労して討ったトコで、
――と、悔しげに言い残し、屋根伝いに仲間たちが控える広場へと退き始めた。
(ふん、シロは上手く退いたかい……)
流石に、やり取りまでは聞こえていないが、遠目にシロが戻って来るのを視認したスズは、小さく頷いてニヤッと笑う。
「!?、"アタシらは"退けって、姐さんは?」
含みを感じる指示に、不安が過ぎった他のコケツ衆の中から、指示の確認を求める声が挙がった。
「アタシかい?、アンタたちのシンガリでもするさ♪
何せ、相手が刀聖だからねぇ――あの光の刀ってモンには、ちょいとした怨みがあるから、アタシが退くワケには行かないだろう?」
スズは嬉しそうに、前方で振るわれている光刃の軌跡を、まるで焦がれた男を見る様子で、眺めながらそう言った。
「――その怨みってさ?、光の刀で着物を裂かれて、ハダカを占報に流されたってヤツでしょ?
いい歳して、まだ根に持ってるんだ?」
「――っ!?」
スズに向けて放たれたその野次は、コケツ衆の中からのモノではなかった。
スズとコケツ衆は、聞き覚えもあるその声の主を探して、辺りを見渡す。
「――へっ!、ついに来たかい♪」
見渡した結果、見つけたその声の主の正体を見やり、スズはまたニヤリと笑った。
「別に良いじゃん?、母さんは、当時からおっぱいも大っきくて、観られても恥ずかしくはないカラダだったんでしょ?、幼児体型のアタシとは違って」
その声の主とは――スズにとっては、愛娘であるタマであった。
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