【世界観解説】ツクモという世界

神々が99番目に創ったとされる世界――ツクモ。



この世界の最大の特徴は、陸地が一つの大陸だけで構成されている事である。


そんな環境のせいか、文化はもちろん、宗教や政治の面でも、一つの方向に集約されている。



まず、ツクモの文化とは、一言で言って――"和"である。



ソウタやレンの格好は、我々の思う和服と想って頂くのが正しい。


これまでに出て来た、軍人や兵士を表す上での"侍"なども、そんな雰囲気に準拠するためと、作者語り手の意図を汲んで頂ければありがたい。


その他のツクモの文化に関しては、語りの中で出来る限り、補足して行こうと思っている。



続いて、宗教は――


『森羅万象、全ての物、全ての事象、それぞれに神は宿っている』


――という考えに基づく多神教、『萬神道まんしんと』のみである。



そのよろずの神を統べているとされるのが、太陽の神――"アマノツバサノオオカミ"という女神だ。



アマノツバサノオオカミは、天船あまふねと呼ばれる、巨大な建造物に乗って、このツクモに降り立ったとされていて、その天船に同乗していた、数千人の人間たちが、ツクモの人たちの始祖であると伝承されている。


その天船は、伝承から数千年有余経ったとされる、現在までも実在していて"オオカミ信仰"の聖地として崇められている。



政治の面に目を向けると――この大陸にある国家は、その伝承にある数千人の人間が、散り散りに別れてこの世界を開拓していく中、順に形成して行ったコミュニティが元だ。



大まかに分けると、"三大国"と俗に呼ばれる、オオカミに仕えていたとされている、3人の従者を始祖とする一族が、"国守くにもり"という、王や皇帝の類に当たる元首として、3分割して治めている地域が大陸世界の8割を占めており、その政治体制も、各国守を君主として崇める封建、絶対君主制が主流であった。



次に、人種や民族――身分制度などに話を移そう。



ツクモの人口の7割は、先程挙げた"降臨伝承"にある、ツクモの地に降り立った数千人を祖とする、典型的な人間型ヒューマノイドタイプの"黄色人種"だが、残りの3割は、"亜人種"とでも呼ぶべきな、もおり、彼らはツクモの先住民でもある。


伝承によれは、降臨当初こそは民族紛争があったとされているが、永い時の中で価値観の変容が起き、今や極々一部を除いて人種の垣根は無い。


亜人種たちは、その持って生まれた特性を様々な分野で活かし、このツクモの社会を支えている。



そんな社会を構築出来ているのは、自由度が高い独特な身分制度の賜物であろう。



ツクモ社会の身分は大まかに――政治や軍事、外交、神事などのコミュニティ全体に関わる仕事に携わる"公者くじゃ"


農業や牧畜、漁業や狩猟、工業などの物の生産、商業や流通などの経済面――人々の生活に関わる仕事に携わる"民者みんじゃ"


そして、そのどちらにも属さず、ある種のフリーランスな立場で、両方に関わる"流者るじゃ"


――の、3つの身分がある。


割合としては――民者が全体の6割、公者と流者がそれぞれ2割を占めている。



一見、関わる生業のイメージから、公者辺りが権力や富を独占し、社会を支配している様に思われる――かもしれないが、ツクモの社会はそうではない。



確かに、ある程度の権限や収入などの格差はあるが、それは単純な能力差や立場に因るモノが主で、身分もそんな能力や適正、志しに端を発する形で就いて行くモノとなっている。


そんな社会風土が示している様に、職業や身分の選択に垣根は皆無で、世襲制を敷いているのは各々の国守たちぐらいだ。


それが"自由度の高い独特な~"と、述べた理由である。



もう一つ、この世界について語るには、欠かす事が出来ない要素ファクターがある――それは、彼らが用いる、魔法の様なエネルギー、"界気かいき"だ。



界気は、降臨伝承後に降り立った人たちが、偶然に発見したとされている鉱物――"星石ほしいし"に含まれていた、一種の万能エネルギーの総称である。


火にくべれば、たちまちに火力が増し、水に溶かせば、満々と水量が増え、土に混ぜれば、作物に豊富な栄養を与える肥料ともなる――星石は、ツクモを支える宝の石として、繁栄の原動力となっていった。



人々が、星石を使い始めてから、50年ほど経った後――人々は、星石の新たな力を知る事になる。



星石を燃やした煙を吸い、星石を溶かした水を飲み、星石を用いて栽培した作物を食べて育った、新世代とでも呼ぶべきな、ツクモ生まれの人たちの多くが――不思議な力を宿し、次々と覚醒していったのだっ!


それを、研究の末に気付いた人たちは、その星石の秘めた力に驚嘆した。


まだ、当時は人々と共にあったと伝わる、アマノツバサノオオカミは、その不思議な力を、『この世"界"から賜った"ちから』と評して"界気"と名付け、その存在を恐れもしていたという。


自分たちが構築したそんな独特な社会と、手にした界気という不思議な力のおかげで、ツクモの地は、大きな変動も無く栄え、時には――戦乱などもあるにはあったが、順調に人々は営みを育んでいった。



さて――この物語が始まる25年前、その三大国体制を揺るがす事変が起きた。



大陸の南西部を治める、三大国の一角――"スヨウ"の国と、北東部を統べる同じ三大国に当たる"ハクキ"の国との間に、大きな戦乱が起き、その戦いは6年もの間、泥沼化。


その結果、敗れたハクキの国は体制が瓦解し、国家自体が立ち行かなくなり、地方公者の長や有力民者、民者が直接投票で選んだ代表などが、国守の名代を努める、小規模国家の集合体へと変容し、"ハクキ合衆連邦"として生まれ変わる形で、三大国制をかろうじて維持した。



その変革が、ついにこの世界を変動させる、新たな火種をも産んだ。



ハクキ連邦設立から8年――もう一つの三大国である、西側一体を治めていた"コクエ"の国で、先の大戦への関わり方や、その後の始末に因る国際影響力の低下、そして――一部の地方公者の愚政を野放しにしていた、国守や中央の怠慢さに民者が業を煮やし、ツクモ史上初めての内乱、内戦へと発展!



最終的には、反乱勢力が国都を占拠し、国守を殺害――"革命"が成されたのだった。



革命を起こした反乱勢力が、国の再建の手本にしたのが、ハクキ連邦の一部で用いられている、民者が代表を選び、国の運営を一任する方法――つまり、ツクモに芽生え始めたばかりだった、民主主義を基軸とした国家の設立である。


しかし、個人を尊重し自由である事を望む勢力が設立した"北コクエ"と、平等の全体化のために、管理された国家を理想とする勢力が建国した"南コクエ"が対立し、コクエの国は南北に分断される事となる。



これで事実上、三大国体制は崩壊し、ツクモの地は未曾有の不安定さと危うさを抱えたまま、現在に至るのである。



我々の語意で言えば、現在のツクモは――封建君主制の古き社会に生まれた、新しい考えである合衆連邦制や民主主義、その派生で芽生えた自由主義と全体主義の対立などが乱立した、まさに混沌と化そうとしている世界なのである。



そんな、混沌を生きる人々の心に、支えの様に根付く、ある伝承がある――それは、降臨伝承の次に古くから伝わる、ある英雄譚の一節。



『――世、乱れる時、光の刀持ちて、現れる者、有り。


その者、人々は刀聖と呼び、刀聖、振るう刀は、乱れを鎮め、邪を滅し、このツクモを照らす、道しるべを示さん――』



――人々は、この一節を信じ、心の糧として、この混沌が払われる事を願っていた。



この"刀聖"の存在は、決しておとぎ話や戯言の類に非ず。


現に――ツクモ世界の節目の時期には必ず現れていて、近々では、先のスヨウとハクキの間で起こった、大戦の最中にも現れ、その大戦終結のキッカケと、その一旦を担っていた事が"史実"として確認されている。



そんな、混沌の最中に出会った、ソウタとレン。



そして、二人が巻き込まれた"ヤマカキ事変"が、燻っていた混沌を刺激し、後に続く大戦乱の発端になるとは、今の二人には知るよしも無い――

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