第16話
バーデン伯爵家でおこなわれたパーティーから帰宅した私とお兄さまは、その雨に濡れてぐしゃぐしゃになった様子をみたお父さまにひどく叱られることとなりました。
「なぜそんな濡れているんだっ!」と怒られるのかと思ったのですが、お父さまは何も聞かずに「お風呂に入ってくるように」と言ってお仕事に戻られました。
お兄さまと私は顔を見合わせて、ほっとしたような表情を浮かべました。
が、案の定あの雨の中しばらくいたこともあって、私は高熱が出てしまい、寝込むことになってしまいました……。
「ローゼマリー様、目の包帯変えますね」
「(ふんふん)」
そうです、昨日目に飛んで入った泥がやはり悪さをしてしまって、目も腫れてしまいなんとも痛々しい姿になってしまいました。
自分でもできると言ったはいいものの、高熱で身体が言うことを聞かず……。
クリスタさんにお世話になりっぱなしなんです。
「もう、さっき廊下に出たらラルスさまが『ローゼは大丈夫なのかっ?!』とすごい形相で聞いて来られて。心配ないですよ、っておっしゃってもなかなか納得してもらえず。痛々しいお姿見られたくないというローゼマリー様のお気持ちも理解してほしいですっ!!」
「(それはご迷惑をおかけしてしました)」
私はベッドの上で座り、深々とお辞儀をして謝罪をするのですが、かえって気を遣わせたみたいでクリスタさんは慌ててしまいました。
またベッドに横になると、クリスタさんが私のおでこにある水で濡らした冷たい布を取り換えてくれます。
あ~冷たくて気持ちいいです……。
そういえば修道院でいたとき、私が熱を出してしまい、一緒にいた子が同じように看病をしてくださいました。
みんなに会いたいな……といまだにふと思います。
そして高熱で寝込んでしまってから3日後、ようやく熱も下がってお父さまとお兄さまと一緒に食事をすることになりました。
私がダイニングに向かうと、もう二人は私のもとにすごい勢いでかけつけてくださり、病状を心配してくださいます。
「ローゼッ! もう動いていいのかい?」
「(こく)」
「心配したぞ、でも元気になったようでよかった」
「(こくこく)」
お二人にはとても心配をかけていることはクリスタさんから聞いてはいますが、いざ実際にそのお声を聞くとなんとも申し訳なくなるといいますが、不甲斐なく思います。
目のほうもだいぶよくなりましたが、少し赤みが残ってしまっているようで、しばらくは外出を控えたほうがいいとお医者さまからいただくことになってしまいました……。
やはりお二人にも目の具合が気になったようで、それぞれ頭を撫でたり、目を見て頬を撫でたりと、心配してくださいました。
「今日はまだ病み上がりだから、食べやすいものにしてもらっているよ。一緒に食べようか」
「(はいっ! ありがとうございます!)」
やはりお父さまとお兄さまと一緒にいたり、お話をすると元気が出ます。
わっ! お食事も美味しそうですね!
クリスタさん、ありがとうございます!
お辞儀をしてお礼を言う私に、「いいえ、料理長ががんばってくださいました!!」とお返事をくださいます。
「ローゼ」
「(?)」
「この後二人でお茶でもどうかな?」
「(ぜひっ!)」
「よかった、お父さま、奥のお庭を使ってもよろしいですか?」
「ああ、構わない。もうあそこは好きに使っていいからな」
「ありがとうございます」
奥のお庭とは一体……。
まだお屋敷で私が行ったことがない場所があるようです。
それにしてもお兄さまとお茶なんて、楽しみです!
◇◆◇
楽しみで少しおめかしをさせてもらっていつもの庭園までやってきました。
「お待たせ、ローゼ」
お兄さまがいらして奥のお庭に案内をしてくださるそうです。
庭園のガゼボのさらに奥に小道のような場所があって、そこを抜けるとなんとそこには大きな噴水と一面のオレンジの薔薇があったんです!
なんて綺麗なんでしょうか……!
それに噴水なんて初めてみました!!
「さ、こっちに座ってお茶にしようか」
「(はいっ!)」
さらに奥の小さめのガゼボに行って椅子に座ると、クリスタさんが紅茶を注いでくださいます。
この香り……今日はレモンティーですね!
紅茶を楽しみながら噴水や薔薇に目をやっていると、お兄さまがお話を始めます。
「ここは元々母上の作った庭園でね、オレンジの薔薇はすごく珍しいんだけど、こんなに多く咲いたんだ」
確かにオレンジの薔薇は見たことがありません。
「よく父上と母上はここでお茶をして楽しんでいたよ。結婚記念日には毎年ここでディナーをしていてね、素敵だなって思った」
それは素敵です……。お母さまに一度でいいからお会いしてみたかったな……。
「あの蝶の髪飾りあるだろう?」
「(こく)」
「あれは父が母に贈ったものらしくてね。母に聞いたら昔結婚していない時にプレゼントで渡されたって」
では、お父さまがお母さまのことを先に好きだったのでしょうか。
お兄さまも同じことをどうやら思ったらしく、お母さまに聞いたのだそう。
そしたら……。
「『実はね、お父さまは覚えていないけれど、小さな頃にすでに会っていたのよ、私たち。昔からお母さんはお父さまのこっそり好きだったの。内緒よ?』って」
「(まあっ!)」
お母さまのほうが先に好きだったんですね!
嬉しそうに、楽しそうに語るお兄さま。本当にお二人のことが好きなことが伝わってきます。
私は素敵だと思ったと伝えるために胸に手をあてて目を閉じ、その次に目を開けて微笑みました。
どうやら思いは伝わってようで、「ありがとう」と言ってくださいました。
お兄さまとそんな素敵な恋愛がしてみたいな、なんて思います。
夢でもいいので、そんな未来が来ればいいな。
私は紅茶を一口飲んで、お兄さまをまた見つめてしまいました。
ああ、お兄さまがやっぱり大好きです──
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