第12話

「ローゼマリー様、なんだか最近は嬉しそうですね」

「(ふんふん!)」

「何かいいことでもあったんでしょうかね~」


 髪を結ってくれながらクリスタさんが私に尋ねてきます。

 お兄さまに恋をしているんです、っていったらクリスタさんはどんな反応をしてくださるでしょうか。

 でも、血は繋がっていないとはいえ兄妹ですから、絵本の女の子と王子様のようにはいかないかもしれませんね。

 傍にいられるだけ、私は贅沢な気がしています。


「はい、できましたよ~! クリスタ特製豪華スペシャルです~」


 わあっ! 今日はみつあみもあってふわふわな髪になってます!

 こんな波打つような髪はどうやってやるんでしょうか。

 私は気になって自分の髪を触りながらじっと見つけてみます。


「ふふ、このウェーブはみつあみをしてしばらく置いてから解くと、こんな感じにふわふわになるんですよ~」


 そうだったんですね!

 すごくかわいくて、そうだっ! 絵本で見た女の子の髪みたいです!


「さあ、これでラルスさまとのお茶会を楽しみましょう!」

「(はいっ!)」


 午後のアフタヌーンティーのマナー練習をしようと思っているとランチの時にお話ししたら、お兄さまも来てくださるそうで。

 私一人での復習でしたから、少し不安だったので心強いです。

 そして何より、少しでもお兄さまと一緒にいられることが嬉しくて、心が踊ります。


 ヴィルフェルト家の庭園のガゼボに着くと、そこにはすでにお兄さまがいらっしゃいました。

 私のほうをみると少し驚いた素振りを見せます。


「お姫様、今日は素敵なお召し物と髪ですね。ご一緒できて光栄です」


 そう言いながら膝をついて私に手を差し伸べてくださいます。

 私はお兄さまにそんな膝をつかせてしまって慌ててしまい、あわあわとしてしまいます。


「今日はローゼはお姫様。一緒に私とお茶をしてくださいますか?」


 そんな風にきらきらした笑顔で大好きなお兄さまにいわれたら、断れるわけありません。

 私はその手を取って静かに頷きました。



 クリスタさんが紅茶などの準備をしてくださってテーブルに並べてくださいます。

 えっと、アフタヌーンティーにはケーキやサンドウィッチなどが来るんですよね。

 どれも美味しくて大好きなんです!

 紅茶は今日はフルーツの香りがしますね、いい匂い。


「庭で採れたベリーかな、クリスタ」

「左様でございます。よく実っておりましたので、今日のお茶にと使わせていただきました。他にもスコーンのジャムに使用しております」

「なるほど、ありがとう」


 そう言うとクリスタさんはお辞儀をして少し離れたところに立ちます。


「ローゼ、君はどれが好きなんだい?」


 『好き』という言葉にちょっとドキッと反応してしまって、恥ずかしいです……。

 食べ物でどれが好きか、ですね?

 う~ん、そうですね~。これでしょうか。


「ベリーのケーキか。私も好きなんだ、もうすぐベリーがよく採れる時期で、この前いったカフェにも期間限定のベリーのスイーツが販売されるから、今度一緒に行こうか」

「(本当ですか?! はいっ!!!!)」


 大好きなお兄さまと一緒に、大好きなベリーのお菓子を食べに行けるなんて、なんて幸せなんでしょう。

 しかも、この前の綺麗で素敵なカフェ。

 もう一度行ってみたいと思っていたので、本当に嬉しいです!


「ローゼもだいぶ読み書きができるようになったね。それにマナーもすごくよくできてるってエリザベート先生から聞いたよ」


 そうだったんですね、そんな風に言っていただけると嬉しいです。

 たぶん皆さんの教え方がすごいおかげですね。


「ローゼ、動かないで」

「(え?)」


 私はお兄さまの言葉通り固まったように身体を止めると、視線だけお兄さまに注ぎます。

 すると、お兄さまの顔がどんどんどんどん近くに来ます。

 え、お、お兄さまっ?!

 視界の中で大きくなっていくお兄さま。

 距離はどんどん近くなってあっという間にすぐそばに。


 私は思わず反射的に目をつぶってしまいました。

 すると唇の近くに何か柔らかいものが触れた感覚があって、びっくりして今度は目を開けました。


「ほら、クリームがついてる」


 お兄さまはご自分の指についたクリームを見せて、それをぺろりとなめました。


「──っ!!!!」


 キスされたのかと思った……。


 なんて恥ずかしくて声が出ても言えませんが、なんだか私ばかりドキドキさせられているような気がして、少しお兄さまが意地悪に思いました──


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