第3話~Sideラルス~

 なんて線の細い子なんだろう。

 これが私のローゼマリーに対する第一印象だった。


 王都に近い影響もありうちの領地は公爵家でありながらそれほど広大な領地を持っているわけではない。

 むしろ宝石商や画商で富を得ている伯爵家や侯爵家のほうが領地が広いだろう。

 そんな領地の中で修道院は一つだけ存在していた。

 これもまたそれほどの規模ではなかったが、身寄りのない子が三十人ほど暮らしている。

 ローゼマリーもその一人だったのだが、私が彼女の存在を知ったのは火事で修道院が燃え尽きた時だった。


 明け方に出火したとみられる火はおそらく葉巻の吸い殻の不始末が原因ではないかと見られている。

 私は父上から見せてもらったその報告書を見てため息をついた。


「ラルス様、やはり近隣住民も何度かシスターが葉巻を吸うところを見ていたようです」

「ではやはり火事の原因はその可能性が高いな。シスターの行方は?」

「はい、ようやく見つかりまして隣町の空き家を勝手に使用して住んでいるようです」


 私はその発言を聞き心からシスターのことを軽蔑した。

 子供たちを導き救うべき立場のシスターがそのような振る舞い許されるわけがない。


「それからラルス様のご指示通り調査しましたところ、やはり子供たちはみな教育なども受けておらず修道院でも度を超えた労働をおこなわせ、体罰は日常茶飯事のようでした」

「わかった、資料をまとめるので少しだけ待ってもらえるか?」

「かしこまりました」


 私は調査報告書として父上に提出する資料のまとめの続きを書き始めた。


 書き始めて私は念のため、目の前にいるロルフに確認をする。


「ローゼマリー以外の子供たちはやはり」

「はい、全員死亡との見識となりました」

「そうか」


 私は腹立たしさでペンを折ってしまいそうになる。

 現場の状況から見てシスターは子供たちを置き去りにして逃げたと見られている。

 子供たちはどれだけ辛かっただろうか、苦しかっただろうか。

 ローゼマリーはどれだけ怖い思いをしたのだろうか。

 想像をしただけで痛々しく思う。


 報告書を書く右手のすぐ横にはローゼマリーの書いてくれた手紙があった。



『らるすさま、ありがとうございます』



 まだ拙い文字でお世辞にも綺麗とはいいがたい文字だが、それでも必死に書いている彼女の姿が目に浮かんでくる。

 彼女は私のたった一人の義妹となった。

 必ずあの子は私が守って見せる。二度とあのような辛い思いはさせない。


「ロルフ、これを父上に」

「かしこまりました」


 私は修道院に関する調査結果をまとめた資料を渡す。

 さあ、そろそろローゼマリーとの勉強の時間だ。


 ちらりともう一度彼女からもらった手紙を一瞥すると、私は彼女のもとへと向かった──



 数日後、シスターは公爵家所属の警備隊に捕縛され、父上から王命の処罰が言い渡された。


 シスターの資格剝奪ならびに国外永久追放。


 彼女は泣きじゃくって言い訳を並べながら国外へとほうり出されたという。

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