第17話~Sideクリスタ~
私がヴィルフェルト家にてお仕えするようになったのは、5年ほど前です。
ですが、もともと母がラルスさまのお母上であるアデリナ様にお仕えするメイドでしたから、この家に小さい頃に来た事がありました。
この家の皆様には大変よくしていただきましたので、私も大きくなったらここのお屋敷にお仕えにあがりたい!とよく思ったものです。
そして私は病気になった母に代わるようにヴィルフェルト家のメイドとしてお仕えするようになりました。
メイドで身でありながら家事スキルが低く、毎日失敗してはメイド長に頭を下げる、そんな日々でした。
やがて段々メイドとして一人前に働けるようになった頃、私は彼女と出会いました。
彼女は修道院の育ちではありますが、火事によって身寄りがなくなったため旦那様がこのお屋敷の娘として引き取られた方でした。
「14歳とお聞きしていますが、もう少し幼く見えます」
細身で厳しい環境下におかれていたことがよくわかるお身体をされていて、少し気の毒に思いました。
「クリスタ、彼女の専属メイドになってもらえないだろうか?」
「ええ、もちろんでございますが、私でよろしいのですか?」
「ああ、君が適任だと思う」
「かしこまりました。精いっぱい努めさせていただきます」
私は旦那様にお辞儀をして部屋をあとにすると、そのままラルス様の後について彼女の部屋に向かいました。
「私があなた様のお世話をさせていただきます、クリスタでございます。よろしくお願いいたします」
その挨拶に声が出ない彼女は恭しい態度を私にとってみせました。
自分でお掃除をしようとなさったり、ご自分でなんとかお役に立ちたいという思いがひしひしとこの数日伝わってきて、その奉仕精神は見習うべきものがあると感じました。
だからこそ、私は彼女に仕えたいと思ったのかもしれません。
「ん? ああ! 伸ばすのか! リー!! ローゼマリー!!」
ラルス様が彼女のお名前を聞いてようやく彼女が『ローゼマリー様』だとわかりました。
なんて可愛らしくて彼女にぴったりな名だろうと思いました。
それから私は彼女の身支度や伝達係、そして声が出せないことの補助などをおこないました。
「ローゼマリー様、痛かったらいってくださいね?」
「(ふんふん)」
彼女の髪を毎日梳くのですが、なんて真っすぐで綺麗な美しい髪なのだろうといつも思います。
私は妹の髪をよく結っていたので、同じように結って差し上げると、大層お喜びになって嬉しそうに動きで表現してくださいます。
何度も角度を変えながら鏡を見ては、私にくるっと一周して見せます。
そんなに喜んでもらえると、メイド冥利に尽きますね。
読み書きを勉強するようになってからはより早く起きて一生懸命に練習をなさっています。
食事の前の少しの時間でも本を開いて、その本の字を真似て書いたりします。
私の袖を引っ張って、この文字の読み方は?というように尋ねてきたので、「それは、『希望』と読みます」などと、お伝えをします。
そんな彼女の雰囲気が少しずつ変わってきたような気がしたのは、少し前の頃です。
ローゼマリー様はなんだか楽しそうでよく横に音楽に乗るようにゆらゆらと揺れながらお勉強なさっています。
毎日のお洋服選びもとても真剣な表情でお選びになるようになり、食事のときも嬉しそうにダイニングに向かわれます。
そして、その理由がラルス様だと気づいたのは、彼女が食事中にずっと笑顔でラルス様を見ているからでした。
ああ、恋をしているんだなあと女の勘で思いました。
でもきっとローゼマリー様のご様子や性格から、兄にそのような気持ちを向けては失礼と思っているのでしょう。
遠慮がちにラルス様をちらっと見てはすぐに目を逸らされ、小さく首を振っておられます。
この恋が実ればいいと考えますが、そう単純なものではないのでしょう。
おそらくラルス様もローゼマリー様のことを好きなのではないかと思います。
しかし、ここで私がお手伝いをしても何も解決しないのです。
恋は勝ち取ってこそ、幸せが待っています。
私はローゼマリー様がこれからも幸せであるように、今はただ、そっと傍にお仕えして支えるのみです。
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