第5話
「エリザベート先生、お手柔らかにお願いします」
「ん? あら?! どこのイケメンかと思ったらラルスじゃない!」
「ご無沙汰しております」
ラルスさまはエリザベート先生にお辞儀をすると、先生はラルスさまのもとに駆け寄ります。
「もうっ! 昔みたいに『エリー先生』って呼んでちょうだいよ! 辛気臭いじゃない!」
「いえ、でももう私も22歳ですし、失礼かと思いまして。それにもう15年も前ですよ」
そう言ったラルスさまをなんとエリザベート先生はバシッと叩いたんです。
「──っ!」
思わずびっくりしてしまって声は出ないのに口を覆ってしまいました。
ラルスさまに気さくに話される様子に仲の良さがとても伝わります。……が、ちょっと痛そうです。
やっぱり「先生力強いんですから手加減してください」と言うラルスさま。
でもエリザベート先生はそれより気になったところがあるらしく……。
「だって、そんな昔から教えてるっていったら年がバレちゃうじゃない! レディはいつまでも若く見られたいのよ!」
「そ、それは失礼しました」
あのラルスさまが圧倒されています。
エリザベート先生はとてもお強い。そんな感じがとても伝わってきました。
すると、エリザベート先生は私に向きなおしてニコリと笑うとこちらに歩いて来られます。
「変なところ見せちゃったわね、ごめんね。名前長いからエリー先生って呼んでいいわよ……あ、そうね。声がでなかったのよね。ごめんなさい、失言したわ」
申し訳なさそうに眉を下げると、お話を続けます。
「事情は聞いているし、文字の読み書きもここにいるラルスから教わってるって聞いたわ。書けるようになったら書いてくれてもいいし、今は身振りや手振りで伝えてもらって大丈夫よ。もちろん、基本は私が質問であなたの思いを受けとるように努力するわ。それでいいかしら?」
私は大きく頷くと、エリー先生は嬉しそうな顔をして片目を閉じる合図をしました。
どうやら受け入れていただけたようです。
よかった……。
「ではエリザベート先生、私は仕事に戻りますので、ローゼマリーのことよろしくお願いいたします」
「ええ、任せてちょうだい」
ラルスさまは私に向かって微笑むと、ドアを開けて部屋をあとにされました。
お部屋にはエリー先生とクリスタさん、そして私の三人になりました。
いよいよマナーのお勉強が始まります。
「では今日はカーテシーの練習をしましょうか」
「(カーテシー?)」
私はわからないと伝えるために首をかしげます。
「カーテシーは貴族の女性の挨拶よ。こんな風にするの」
そう言いながらエリー先生はドレスの裾を手で持ってちょこんとお辞儀のようなものをします。
「これがカーテシー。やれるかしら」
私は頷いたあとでエリー先生の真似をしてやってみます。
ですが、なかなかこのかかとの高い靴に履きなれていなくてバランスをとるのに苦労します。
エリー先生は私の背中に手をあてて、「背をのばしてみて」とおっしゃいました。
背筋を伸ばして胸をはってみると今度は少しうまくできました。
わあ、これがカーテシー……。
「上手よ。自信なくやるんじゃなくてもっと堂々と胸張ってやってみて。それに相手に敬意を届ける気持ちを忘れないこと。いい?」
「(はいっ!)」
私はエリー先生の言った通りに自信を持って、前にいる先生に敬意を届けるように、を心がけてやりました。
どうやら、うまくできたようでとっても笑顔でうんうんと頷きながら褒めてくださいます。
ラルスさまもいつも褒めてくださいますが、褒めていただけるのは本当に嬉しいです。
自然と私も笑顔になって嬉しくなります!
ちらりとクリスタさんを見ると、笑顔になって拍手をしてくれています。
なんだか初めて自分が誇らしい感じになりました。
まだまだ学ぶことは多いのに、それでもこんなに優しいひとたちに囲まれて私は幸せだなあなんて急に思ってしまいます。
そんな思いに浸っていた私ですが、エリー先生の次の言葉に驚きを隠せませんでした。
「さあ、そんな感じで来月の社交界デビューに向けて一気に練習していくわよ!!」
「(……え?)」
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