第4話
ラルスさまのお名前が書けるようになって、私はみなさんのお前が書きたくて聞いて回りました。
公爵さまは「ふりーど」、メイドさんは「くりすた」と書くみたいです。
本に書いてある文字と自分の文字を見比べると、なんとも不格好な字。
はあ、まだまだうまく書けません。字は難しいです。
紙をたくさんもらったので、何度も何度も練習して書いていきます。
『ローゼマリー』
あっ! 今日は自分の名前がよく書けました!
そんな風に朝からいつも毎日練習するのですが、あっと言う間にいつもお昼になってしまっていて、今日もクリスタさんに肩をとんとんと叩かれて初めてランチの時間だと気づきました。
クリスタさんに連れられて私はダイニングに向かいます。
食事は公爵さまとラルスさまと私でとることになっているのですが、お二人はお仕事で来られない時もあります。
そんな時は私は一人でいただきます。
パンをスープに浸して食べて、サラダはフォークでさして食べます。
でも食事の真ん中くらいにくる少し大きなお皿にのったお肉やお魚の食べ方は、今でもよくわかりません。
あまりじっと見つめるのも失礼かと思って、盗み見るようにちょっとだけラルスさまの食べる様子を見ています。
とても上品に食べていらっしゃって、でも同じように真似をするのにうまくできないのです。
「──っ!!」
また昨日みたいにお魚にかかっているソースをこぼしてしまい、クリスタさんが布でふき取ってくれます。
服に飛んでしまってお洗濯ものを増やしてしまう申し訳なさで、心が痛いです。
「お気になさらないでくださいね。たくさん食べてください。おかわりもありますから!」
クリスタさんは私の思いに気づいてくださったのか、とても優しい言葉をかけてくださいます。
でも、私、もうお腹いっぱいです……。
いつも最後にくる甘いものの時間になったら、今日は公爵さまがお話を始めました。
「ローゼマリー、そろそろマナーの勉強をしようか」
「(マナー?)」
私は首をかしげてきょとんとしてしまいます。
「父上っ! まだローゼマリーはうちに来たばかりで気持ちが追いついていないのではないでしょうか。もう少しあとでも……」
「いいや、うちの娘になったからには厳しくいかせてもらう。お前のときもアデリナが厳しくしていたではないか」
「母上は私を後継ぎとして育てていましたし。ですが、ローゼマリーの場合とはまた違います」
「大丈夫だ、もうエリーに頼んでおいた。明日には来るだろう」
「エリザベートさんにですか?!」
そのエリザベートさんという方はどんな方なのでしょうか?
でも確かにこのお屋敷の人間になったからには、みなさまに迷惑をかけないようにしっかりマナーを身につけなければなりませんね。
私は席を立って、私のためを思ってくださるラルスさまの手を握ってお礼のお辞儀をすると、公爵さまのほうを向いて深く深くお辞儀をしました。
「(私、やります!)」
そんな言葉が伝わるように、私は大きく一つ頷いて目をしっかりと見ました。
思いが伝わったようで公爵さまは私の頭をなでに近寄ってくると、にこりと笑ってくださいました。
「ローゼマリー、立派なレディになれるようにがんばるんだぞ」
「(はいっ!!)」
私も公爵さまに笑みを返しました──
◇◆◇
そして翌日になってついにマナーの先生であるエリザベートさんがいらっしゃる時間になりました。
どうやらご心配をおかけしているようで、ラルスさまも見にいらしてます。
すると、ドアがノックされてクリスタさんが一人の女性を招き入れました。
「エリザベート様、こちらでございます」
「ありがとう、クリスタ」
そういってお部屋に入ってこられたと同時にすぐに私を見つけて、ローズ色に塗られた唇を大きく開いて言いました。
「あなたがローゼマリーちゃんね! まあ~可愛いこと!! でも、厳しくいくからね~!!」
オレンジ色のドレスを着て、とってもはきはきとお話になる様子を見て私は思わずびっくりしてしまいました。
クリスタさんも綺麗ですが、また違う綺麗さを感じます。
思わずみとれてしまいました。
私はこの方についていけるのでしょうか。
自分があまりに自信がないので、少しだけ不安な気持ちになりました──
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