第22話
「王国よりお前に隣国のオリヴィエ・ブランジェ第二王子との婚約の要請が出た」
そう言われて私は思考が停止しました。
婚約……?
「急に決まったことでな、この国の貿易業が近年業績が悪化しておる。そこで海に面していて貿易業で利益をあげている隣国との絆をより深めるために今回の婚約が要請された」
つまり、世に言う政略結婚という感じですね。
お父さまは終始申し訳なさそうにお話をさて、私は首を振って笑顔で聞き届けます。
「もし決まれば花嫁修業も兼ねて、明後日に隣国に旅立つことになる」
明後日……なんと急なんでしょう。
「一応王国はお前の意思も尊重したいからと一日猶予を設けてくださっている。明日まで考えてくれるか?」
私は深くお辞儀をすると退室をしようとドアノブに手をかけましたところで、お父さまに呼び止められました。
「ローゼ」
「(?)」
「無理はしなくていい。自分の生きたいようにしなさい」
「(はい、ありがとうございます)」
もう一度会釈をすると、私は自分の部屋へと向かいました。
自分の部屋のベッドに横になりながら、深く息を吐いてお父さまに言われたことを考えます。
『大丈夫かい、ご令嬢』
黄金色の綺麗な髪を靡かせて、アメジスト色の透き通った目で私を見るオリヴィエ王子。
私を暴漢から身を挺して守ってくださった強いお方──
いつかお兄さまに婚約者ができるまで傍にいたいと考えていたのに、まさか自分のほうに先に婚約話が来るなんて。
『大丈夫、私はローゼの傍から決して離れないから。何があっても必ず』
あの日礼拝堂で言ってくださった言葉が思い浮かぶ。
お兄さまはこのこと知っていらっしゃるんでしょうか。
そんなことを考えながらなかなか眠れず、ホットミルクを入れに廊下に出ると、ばったりとお兄さまに出会った。
「ローゼ」
「(お兄さま……)」
「こんな遅くまでどうしたんだい?」
「(ホットミルクを入れに)」
私は紙で書いてお兄さまに見せます。
「そうか、眠れないんだね。そうだ、明後日新しいドレスを見に行くのはどうかな? 前のドレスもいいけど、最近は社交界への参加も増えてきたし」
お兄さま、私の婚約の事まだ聞いていないのですね。
「(ええ、ぜひ)」
少し控えめに頷くと、お兄さまは「じゃあ、ゆっくり休むんだよ」と頭を撫でてご自分のお部屋に戻られました。
私はホットミルクを入れて部屋に入ると、もう一度よく考えます。
お兄さまのこと、大好きで、でも私はこの家のお役に立ちたい。
私を拾ってくださったこの家に恩返しがしたいです。
『ローゼはヴィルフェルト家になくてはならない存在だよ。だから、あまり気負わないでほしい。ローゼの努力家なところと素直なところは私やみんなわかっているから』
今日言われたお兄さまの言葉がこだまします。
そんな風に言ってくださる、これ以上の幸せはないと思います。
私は何度か目を閉じて考えを巡らせると、一つの決断にたどり着きました。
そう、私はもうヴィルフェルト家が長女、ローゼマリーです。
何を迷うことがありますか。
何をためらうことがありますか。
お兄さまへの想いはいつか断ち切らなければならないこと。
だから……。
ふとお兄さまの優しい笑顔と温かさが思い出されます。
そう、この想いは断ち切らなければならない。
だから……。
◇◆◇
私は翌日、お父さまのお部屋を訪ねて自分の決意を述べました。
『オリヴィエ・ブランジェ第二王子との婚約をありがたくお受けさせていただきます』
私は紙に書いてお父さまに差し出しました。
お父さまは私の決意を受け取り、大きく頷きながら「ありがとう」と言ってくださいました──
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます