第7話

 う~ん、これはここで……このカードはこれですね!


「惜しいですね! 最後の文字はこれです」

「(ふんふん)」


 ランチが終わった後、いつものように文字の読み書き練習をしていたのですが、また間違えてしまいました。

 クリスタさんは「大丈夫ですよ」と優しい声で慰めてくださいます。

 私は正しい文字のカードを机に置きなおして、口を広げて形だけ言葉を言ってみます。毎回この瞬間に、今日は声が出るんじゃないか、なんて思うんですが、出ません。


 ラルスさまがお仕事で忙しい時や私だけで練習するときは、クリスタさんがついて見てくれます。

 あれ、そういえば今日はラルスさま遅いですね。今日もやはりお仕事が忙しいのでしょうか。


 そう思っていた時に、ノックの音と共にラルスさまが入ってきました。


「ごめん、遅くなったね」


 私は首を振って大丈夫なことを伝えますが、よく見たらラルスさまは少し髪が乱れています。

 きっと急いできてくださったのでしょう。そのお気持ちがとても私にはとても贅沢な気がして、嬉しいです。


「仕事が長引いてね、ごめんね」


 そう言いながら私のほうへと歩いて来るラルスさま。

 私の元までいらっしゃったラルスさまは、私に優しい微笑みでこう言いました。


「ローゼマリー、社交界に来ていくドレスを見に行こうか」

「(え?)」


 私は予想外のことを言われてきょとんとしてしまいました。そんな私を見てラルスさまはニコリと笑いました。




◇◆◇



「──っ!!」

「ここにあるもので好きなものある? 今回はオーダーメイドだと間に合わないから既製品で、になってしまうけれど」


 私は見たこともないドレスの数々に圧倒されました。

 ピンクに黄色、水色に紫。いろんな色のドレスが並んでいます!!

 ドレスの形もたくさんあるようで一体何種類あるのか、どれがいいのか私には検討もつきません。


「ここの服屋はヴィルフェルト家の行きつけでね、私もよく来ているよ」

「(ふんふん)」


 私はラルスさまのお話に耳を傾けながら、見ているだけでも楽しいドレスで楽しみます。

 すると、お店の方が私に話しかけてくださいました。


「ローゼマリー様、お気に召したものはございますか?」


 私はどれを選んでいいかわからず困ってしまって、さらにそれをどうお伝えしようかと悩んでしまいます。

 ですが、私のそれに気づいてか、ラルスさまは私の代わりに店員さんに話しかけてくださいました。


「オーナー、この子に合う色や形はどれだろうか」

「そうですね、少々お待ちくださいませ」


 そう言って少し奥にある一着のドレスを持って来ると、私にそのドレスを見せてくださいました。


「こちらはいかがでしょうか?」


 そのドレスは淡いピンク色で、レースがたくさんある可愛らしいドレスでした。

 ラルスさまはそのドレスをじっくり見ると、「どう?」と私に聞いてくださいます。

 正直なところ、私にはもったいないくらいの素敵なドレスで、このドレスを着てみたい!と思ってしまいました。


 いつも遠慮しがちで自分には似合わない、なんて考えてしまうのですが、今日は思いきって甘えてみることにしました。

 私はドレスを指さしながら、ラルスさまの目を見て大きく頷きました──

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