第20話

 さて、本日はフェーヴル伯爵家でお茶会があるので、その準備をしましょうか。

 お兄さまからは昨日の一件があり、お茶会への参加はやめたほうがいいのではないかと言われたのですが、今日はクリスタさんも一緒ですし大丈夫と言って行かせていただくことにしました。

 クリスタさんはこれでも武術の腕前があり、男のひとでも軽々と投げ飛ばせるそうです。

 それを聞いてクリスタさんから恨みを買うようなことはしないでおこうと、心に誓いました。


「ローゼマリー様」

「(は、はいっ!)」


 思わずクリスタさんのお声にびくりとしてしまいました。

 これでは失礼ですね。申し訳ございません、クリスタさん……。


「本日のドレスはこちらでいかがでしょうか?」

「(はい! それにしましょう!)」


 今日のお茶会はテーマが赤色なのです。ドレスや髪飾りなど赤をモチーフにしたものを皆さんつけて来られるそうです。

 私も少し控えめではありますが、赤と白を基調としたドレスに身を包み、お茶会に向かうことにしました。




◇◆◇




 お茶会の会場であるフェーヴル伯爵家に到着すると、すぐにご令嬢が迎えに来てくださいました。


「ローゼマリー様っ! お待ちしておりました。この前は名乗りもせず申し訳ございませんでした。改めまして、フローラでございます。以後お見知りおきを」

「(ローゼマリーです、よろしくお願いいたします)」


 私は紙で文字を書いてお見せしたあと、お辞儀でご挨拶をいたしました。


「それでは早速庭園のほうへご案内いたします」


 そう言うとフローラさまは庭園へと案内をしながら今日のお茶会についてお話をしてくださいました。


「今日は赤をテーマとしたお茶会にさせていただきましたけれど、実はスイーツも赤をテーマにしてまして」

「(ふんふん)」

「ベリーをふんだんに使ったスイーツをたくさんご用意しております」

「──っ!!」


 ベリーのスイーツ!!!

 それはなんて素敵な響きでしょうか。

 ベリーは甘酸っぱくてとても好きなんです!

 それを聞いたクリスタさんも私の耳元で、「良かったですね、ローゼマリー様」とおっしゃいます。


「さあ、着きました。こちらでございます」


 着いた庭園を見るとそれはまた可愛らしい庭園で、ヴィルフェルト家のお庭も素敵ですがここもすごく華やかな感じです。

 私が来たのを見ると皆さん「ごきげんよう」とお声をかけてくださいます。

 フローラさまから紅茶をいただいて一口飲むと、フルーティーな香りがしてとても美味しいです。


 そんな風にお茶会を楽しんでいると、ふいにまたどこかから陰口が聞こえてきました。


「ローゼマリー様、今度は命を狙われたらしいわよ~」

「え~やだあ~こわい! なにか恨みでも買ってるんじゃないかしら?」


 私は聞こえないふりをしてフローラさまたちとお茶やスイーツを楽しみます。

 クリスタさんは私の後ろで殺気を出していて、私は大丈夫だからという合図で手で制止します。


「だって、修道院育ちで公爵家の娘になるなんて。一体どんなコネを使ったらできるのかしら」

「そうよ、ラルス様もきっとかど惑わされているんだわ!」

「どうせ色仕掛けでもして取り入ったんじゃないの? だって女性からの婚約のお申し出なんて多くあるのにいまだに婚約者様をお作りにならないなんて変よ」

「ラルス様も気がおかしくなってしまって……きゃっ!!!」


 自分でも驚くくらいに手が先に出てしまいました。

 気づけば私は悪口を言う彼女に持っていた紅茶をぶちまけていたのです。


「なにをするんですか?!」


 私は自分の声で言い返せない歯がゆさで涙をためながら、紙に殴り書きをして彼女たちに見せました。



『私のことはいくらいっても構いません。でもお兄さまのことを悪く言うのは許しません』



「なっ──!」

「いくら公爵家の娘でもやっていいことの限度が……」

「この場を引いて謝罪をするのはあなたたちです」


 私の後ろからフローラさまがやってきて、私をかばうようにして彼女たちに向かい合います。


「ここはフェーヴル伯爵家の庭。影口や悪口で他人を蔑むような人間は、このお茶会に参加する資格はございません。お引き取り下さい」

「なっ!!!! なんですって~!!」

「もう一度言います、お引き取り下さい」

「わかったわよ、帰ればいいんでしょっ!!」


 そう言って三人のご令嬢たちは出口のほうへと向かわれました。

 私はこの場を乱してしまったお詫びであちこちに深く謝罪をしましたが、フローラさまが「あなたのせいではないことは皆わかっています」と言ってくださり、その場にいた皆様も私に笑顔で接してくださいました。


 クリスタさんも頷きながら私の背中をさすってなぐさめ、そして新しい紅茶を渡してくださいました。


「(ありがとうございます、皆さん)」


 聞こえぬ声でそう私は呟きました──

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